2024年04月26日( 金 )

復活の道が見えない日産自動車の研究(4)

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仏政府がルノーの国有化に踏み切るとの観測

 自動車業界は新型コロナウイルスの流行で大打撃を受けた。とりわけ、コロナ禍と日産自動車(株)の業績悪化というダブルパンチを食らったルノーの経営は深刻だ。

 ルノーは、世界全体で約1万5,000人を削減する計画を発表。うち4,600人はフランス国内で削減する。人員削減の報道を受けて、フランス北部のモーブジュなどの一部工場で抗議行動が起きた。

 これに危機感を抱いたのが、フランスのマクロン大統領だ。支持率回復の切り札として、雇用の確保を掲げている。6月3日、筆頭株主の仏政府がルノーの50億ユーロ(約6,100億円)の借り入れに、融資額の最大90%の保証を付けた。このことは実質的に仏政府が融資したのと同じで、工場は閉鎖されないことになった。

 仏政府は、仏自動車産業全体には約80億ユーロ(約9,800億円)を充てて電気自動車(EV)の増産を促す。さらに仏政府は、コロナウイルス問題で危機に陥った大企業を救うために、国有化も選択肢の1つに挙げた。かつて国有企業だったルノーを一時的に国有化して保護するのではないかとの観測が駆け巡った。

 ルノーは戦後、国の出資率100%の国有企業になり、1996年に民営化された。民営化したルノーの初仕事は99年、日産に出資して傘下に収めたことだった。仏政府は今もルノーの15%の株式を握る筆頭株主だ。

 仏政府はルノーの経営を左右する。昨年6月、ルノーと欧米大手、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の経営統合が破談した。ルノーの筆頭株主の仏政府が、フランスの雇用を一切減らさないことを経営統合の条件として提示したため、FCAが交渉を打ち切ったことが理由だ。

 ルノーを国有化するかどうかは、マクロン大統領の腹1つだ。ルノーの経営の自由度は低い。

ルノーは再建資金の捻出のため、日産株売却の可能性

 日仏連合が5月に公表した中期経営計画は、次世代車の技術開発の分担や相互の生産委託など連携を強く意識した内容だった。7月1日付で、ルノーのCEOに就任したルカ・デメオ氏は、自身の就任前に決まった各社の役割分担について不満を漏らしているという。
 日産が業績でルノーに貢献する「孝行息子」のときには、取り込もうと必死になっていたが、日産が業績の足を引っ張るようになって、距離を置くようになった。

 ルノーのスナール会長は、最近、日産との経営統合のことを話さなくなった。5月末の3社連合の会見でも「合併は必要ない」と否定した。

 「ルノーのドミニク(スナール)会長もデメオCEOも、日産と心中するつもりはない。保有している日産株の一部を売却して、ルノーの再建資金に充てることはあり得る話」(自動車担当アナリスト)。

 こんな記事が目に止まった。日産とルノーの前会長であるゴーン氏が、7月19日付の仏紙『ル・パリジャン』のインタビューで、古巣の2社の決算は「惨めだ」と酷評し、業績が悪化したのは新型コロナウイルス危機よりも、共同経営体制を欠いたことが要因との見方を示したという。ゴーン氏は「両社は内向きになっている。両社の間にもはや経営の真の融合はなく、不信感が漂う」と語っている。

 両社の経営危機は、もとはといえばゴーン氏が撒いたもの。両社にとっては「あなただけには言われたくない」という心境だろう。

(つづく)

【森村 和男】

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