2024年04月19日( 金 )

「ウォーカブル」なまちづくりで神戸市は復活できるか?(4)

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 神戸市の中心、三宮駅周辺が変わりつつある。神戸市は震災から20年が経過した2015年、歩行者優先のまちづくり(ウォーカブル)を志向した三宮駅周辺地区の「再整備基本構想」を策定。18年には、構想に基づく『神戸三宮「えき≈まち空間」基本計画』をとりまとめた。また、20年7月から「タワーマンション規制(容積率規制)」がスタート。居住機能を抑制する一方、オフィスや商業施設の優遇に踏み切った。阪神淡路大震災から20年間、“攻め”のまちづくりができなかった神戸・三宮だが、総事業費7,440億円(官民合計)を投じるプロジェクトによって、かつての存在感を取り戻すことができるのか――。

タワマン規制は英断か

 神戸市の人口は、20年6月時点で151万人。阪神淡路大震災の影響により151万人から142万人まで減少したが、その後は回復を続け、2011年には154万人に達したものの、以降は減少傾向にある。そんななか、三宮駅がある中央区の人口は増加を続けている(同14万人、05年は11万人)。

 神戸市は20年7月、構想に基づく施策として、三宮など、都心の商業施設を対象にした特別用途地区(都心機能誘導地区、314.6ha)の指定を施行。新たな住宅制限(三宮駅周辺は住宅禁止、そのほかは敷地面積1,000m2以上は400%まで)に踏み切った。タワーマンション(以下、タワマン)規制だ。三宮のある中央区には24棟のタワマンが建設済み(18年6月時点)だが、今後は少なくとも三宮駅周辺で新たなタワマンが建つことはなくなる。

 都市経営の観点から見れば、人口は都市の活力とほぼ同義語だ。人口増加の手法はさまざまだが、タワマン誘致は、てっとり早く人口を増やせ、モノにもよるが、話題性もあり、投資対象にもなる。地元の関連業者なども潤うため、歓迎する自治体は多い。自治体の首長が自ら手がけた再開発住宅に入居しているという話も聞く。タワマン建設にはいろいろな“ウマミ”があるようだ。

 ただ、タワマンの林立によって、一定のエリアに人口が集中すると、弊害も生まれる。たとえば、人口増加にともない新たな小学校などが必要になる。公共交通機関が混雑する。入居者が一斉に高齢化する。将来の建替えが難しい――などだ。神戸市が“タワマン規制”に踏み切った背景には、居住機能を抑制する一方、商業・業務施設を優遇することで、都市機能のバランスを保ち、都市としての求心力を高めたい思惑がある。

 タワマン規制に対して「時代に逆行している」などと批判する声もあるようだが、修繕積立金、階層マウント、希薄なコミュニティ、エレベータ地獄など、住宅としての問題点が次々に明るみになっていることも考えると、今回の神戸市の決断は将来的に「英断」と評価される可能性はある。

真の震災復興へ

ウォーカブルにリニューアルされた葺合南54号線
(神戸市HPより)

 これまでの神戸市は、「海と山が近く、異国情緒漂うおしゃれな海洋商業工業都市」という都市モデルで都市経営してきた。このモデルが一定の成功を収めたからこそ、今の神戸市の姿があるわけだが、再開発が進む大阪市などの他都市との競争が激化するなかで、従来のモデルを守っているだけでは、都市競争に打ち勝てなくなる可能性が出てきた。それは、人口の減少や都市機能の流出というカタチで現れている。一連の三宮駅周辺の再開発プロジェクトには、「ウォーカブル」という新しい切り口で都市モデルを再生しようという市サイドの思惑がうかがえる。

 これらの取り組みによって、20年間の空白期間を埋め、「株式会社神戸市」といわれたかつての活気ある姿を取り戻せるかどうかはわからない。ただ、これだけはいえる。新たな地平に向かって歩み始めることこそが、神戸市の真の震災復興のスタートになるはずだ――と。

(了)

【大石 恭正】

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