何が変わるのか?大阪市・水道管路更新コンセッション(後)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年08月15日 07:00

何が変わるのか?大阪市・水道管路更新コンセッション(後)

 大阪市水道局は、配水管の耐震化促進のため、2018年12月に成立した改正水道法に基づく「コンセッション方式()」による管路更新(耐震管への取替え)事業を進めている。コンセッション化は、水道料金値上げを避けながら、管路更新ペースを倍化させるのが主な狙いで、約1,800kmの管路更新を約15年間で達成したい考えだ。

 施工計画策定、設計、発注、施工、施工監理という、管路更新に関する市の業務全般を民間事業者に譲渡。市は、民間事業者をモニタリングする部署を新たに設置し、各業務フローなどの不正不良などをチェックする。市は20年4月にコンセッション化に関する実施方針を公表。21年に事業者の選定などを行い、22年4月に事業開始する予定だ。大阪市はなぜ、管路更新事業のコンセッション化に踏み切ったのか。コンセッション化によって、管路更新事業はどう変わるのか。

※コンセッション方式:許可制運営権制度。事業権譲渡などともいわれる。水道施設の所有権は自治体のまま、公共施設運営権を民間事業者に設定する方式。根拠法はPFI法、水道法。施設の所有権が移転しないので、いわゆる「民営化」には当たらないとされる。^

市のチェックに違和感

 市担当者は「受け皿となる民間事業者はある。ただ、業務量が膨大なため、単独の企業ではなく、複数企業から成るSPC(特別目的会社)を想定している」と話す。ただ、日本国内で管路更新をコンセッション化した前例はなく、当然、経験のある日本企業もない。事業開始後の初期トラブルは不可避だろう。

 更新ペースの高さも、達成できるか気がかりだ。実績のない民間事業者が、市直営の倍近いペースで仕事をこなせるとは考えにくい。いわゆる「官から民へ」の流れは、「民間ができることは民間に」という考えをベースにしたものだが、現状では「行政ができないことを民間に」の感が否めない。

 工事発注も当然行うわけだが、その際、大阪市中小企業振興基本条例に基づき、市は民間事業者に対し、市内中小企業との連携、協力に応じるよう求めることになっている。民間事業者は、その趣旨を踏まえた事業計画書を提出する。要するに、地元の業者が受注できるよう差配を求めるということだ。地元びいきはどこの都市でも同じようなことをやっているし、それ自体は問題ではない。

 問題なのは、市が“優良な市内業者”を前提にしている点だ。19年に水道局発注の水道管工事(更新工事)で、400に上る市内業者による大量の不正埋戻しが発覚している。普通に考えれば、不正埋戻しをした業者は優良とはいえず、400業者は入札から排除するのがスジだ。ただし、400もの業者を排除すると、工事を受注する業者がいなくなる。「不正埋戻しはしたけれども、賠償もしたし、それはなかったことにして、優良な業者として取り扱う」――ことになっている。管路更新事業を進めるという意味では現実的な対応だが、結果的に「赤信号みんなで渡れば怖くない」的な状況を市が肯定してしまったのは、いかがなものかといわざるを得ない。

 そもそも市による不正不良のチェックにも、違和感がある。直営工事の不正を見逃した同じ組織が、民間工事の不正不良をチェックできるのか。まずはチェックすべきは大阪市水道局そのものではないのか。市議会も市民も、よくこの点をスルーしたものだ。

値上げしにくい水道事業者

 更新ペースが管路の老朽化に追いつかず、老朽管率の高止まり状態が続くという問題は、大阪市に限らず、全国の自治体などが直面している問題だ。水道は道路などと同じく国民のためのインフラであるが、企業会計(独立採算制)の下、自治体などによって運営されてきた経緯がある。水道事業者によってサービスや料金に格差があり、老朽管の更新も、事業体の規模などによって、温度差がある。水道システムの維持に必要なコストは、料金に上乗せするのがスジだが、20数年間デフレが続く日本では、料金値上げは政治的に難しい。

 全国の水道事業者は、そういう構造的な制約のなか、何とか管路更新ペースを上げようともがいている。大阪市の管路更新事業のコンセッション化は、ペースを上げるための窮余の一策と見ることができる。その一策が吉と出るか凶と出るか――。まずは、どういう民間事業者が選ばれるかに注目したい。

(了)

【大石 恭正】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年10月24日 07:00

構造スリットの第一人者・都甲栄充氏が来福~構造設計一級建築士・仲盛昭二氏とベルヴィ香椎の施工不具合問題を対談(4)

 「築後10年といえば、マンションはほとんど劣化しておらず、構造スリットの不具合という重大な瑕疵が隠れているとは誰も考えないでしょう。しかし、外観がきれいであっても、...

2020年10月24日 07:00

イズミ8月中間決算、経費減で経常17.5%増を確保 売上は11.8%減

 イズミの8月中間連結決算は、営業収益が前年同期比11.8%の減収であっだが、粗利益率の改善と販管費削減で経常利益は17.5%の増益を確保した...

2020年10月23日 18:30

第一生命が詐欺容疑で『実録 頭取交替』登場の元社員を刑事告発 (20) 甲羅万蔵とは

 『実録 頭取交替』で維新銀行を舞台に登場する主人公の甲羅万蔵について触れる。【表1】、【表2】を見ていただきたい。甲羅のモデル・田中耕三・山口銀行特別社友に関する資料だ。

2020年10月23日 18:09

ストラテジーブレティン(263)~コロナパンデミックの経済史的考察(1)

 100年に一度の金融危機(グリーンスパン元FRB議長)と評されたリーマン・ショックは、その後の順調な回復を振り返れば、大げさすぎた表現であった。しかし今進行している...

2020年10月23日 17:30

『脊振の自然に魅せられて』レスキューポイント設置に向けて(4)

 プレートには、「早良区役所」「脊振の自然を愛する会」のロゴを入れるようドコモから指示があり、あわせてドコモのロゴと「ドコモの携帯電話がご利用できます」との文字を表示...

2020年10月23日 16:55

国際金融誘致へ~福岡市が国際金融に特化したワンストップサポート窓口「Global Finance Centre」を開設

 20日、福岡市は国際金融に特化したワンストップサポート窓口「Global Finance Centre」を開設した...

2020年10月23日 16:41

福岡商工会議所 次期副会頭に西日本FHの谷川社長ら

 福岡商工会議所の役員が11月に任期満了と迎えるが、次期副会頭に西日本フィナンシャルホールディングスの谷川浩道代表取締役社長らが就任する予定であることがわかった...

2020年10月23日 16:34

音楽に見る日本人の正体(3)総集編(後)

 マスコミそのものが筆者身近な読者同様、「敵性音楽の使用」に関心がないのかもしれない。そのように考えてみると、戦後この問題に触れたのは、管見の限りでは長田暁二氏(大衆...

2020年10月23日 15:49

P&G、イオンなどが米テラサイクルの容器再利用「Loop」を導入~「使い捨てプラ容器のほうが低コスト」という常識に挑戦(前)

 米リサイクルベンチャーのテラサイクルジャパン(合)は来年3月、イオンやP&G、味の素、キリンビール、大塚製薬などが参加する容器再利用、リサイクルのショッピングシステ...

2020年10月23日 15:00

厚生労働省公表の「ブラック企業」 9月30日発表 九州地区(福岡を除く)

 20年9月30日に公表(20年8月31日更新分)された福岡を除く九州地区分は下記の通り...

pagetop