2024年05月03日( 金 )

傾斜マンション問題、ベルヴィ香椎の建替えに立ちはだかる壁(中)

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 福岡東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」(以下、六番館)の施工ミスに関して、販売会社である若築建設(株)・JR九州・福岡商事(株)の3社が「改修」「解体・建替え」「買い取り」の3つの案を示したことを受けて、六番館の管理組合は「一団地認定(※)」に関する調査を開始した。六番館の建替えを見据えた調査と考えられるが、六番館以外の棟の問題を残したまま、建替えが進められていくのか。さらに、六番館以外の棟の安全性・適法性は担保されるのか。構造設計一級建築士の仲盛昭二氏に意見を聞いた。

最悪の場合、建替えの建築確認も得られず

 ―六番館建替えの建築確認については確認検査機関も難題を抱えることになりますか。

 仲盛 同一敷地内に違法状態の建物が存在した状態で、建て替える建築物について建築確認済証を交付することは、法的に成立しません。少なくとも、違法状態の建物を適法な状態に是正した後でなければ、一団地内で建て替える棟についての確認済証は交付できません。

 構造スリットの未施工という違法状態を是正するためには、該当する棟において4分の3以上の決議が必要になるため、決議にも時間を要します。最悪の場合、「決議が得られないため是正が実施できず、建替えの建築確認も得られない」という事態も想定されます。

 また、建替えを行う棟以外の構造スリット未施工の棟において是正工事が決議されたとしても、販売会社らが是正工事に合意するかどうかはわかりません。販売会社らの合意を得たとしても、是正工事が完了するまでには多くの時間と困難な問題の解決が必要となるでしょう。以上のことを考慮すると、建替えの建築確認申請を受け付ける確認検査機関はないかもしれません。

仲盛氏の建築士免許に対する誤解

 ―六番館の管理組合が区分所有者に配布した文書において、同・佐々木特別理事は、「仲盛氏が一級建築士免許をもっていない」と書いている件についてはどうですか。

 仲盛 佐々木特別理事は、私が一級建築士免許をもっていないと声高に叫んでいるようですが、登録申請を済ませている事実をご存じないようです。私は、一級建築士の上位の資格である構造設計一級建築士の資格を持ち続けています。

 一級建築士と構造設計一級建築士の関係は、たとえると普通自動車免許と大型自動車免許のような関係で、構造設計一級建築士は、一級建築士として構造設計の業務に5年以上の実務経験を有した後に、考査を経て取得できる資格です。

 大型自動車免許をもっている人は、履歴書に大型自動車免許のみを記入し、普通自動車免許を省略することが多いと考えられます。私も、構造設計一級建築士の資格を持っているため、一級建築士の登録は見合わせていましたが、今回の佐々木特別理事のように誤解をされるケースがあるため、登録を申請しました。

他棟の区分所有者には、敷地内に違法建築物という爆弾

 ―仲盛氏は、佐々木特別理事から昨年末に受けた相談に対して、アドバイスをしたとのことですが、佐々木特別理事は、仲盛さんが一級建築士ではないと思いながら相談をしたことになりますね。佐々木特別理事建築構造に関するアドバイスを受けていながら、後になって「仲盛氏は一級建築士ではない」と非難するのは行動に一貫性がないと感じます。

 仲盛 佐々木特別理事の頭のなかまでは理解できませんが、私は、佐々木特別理事に頼まれなければ、ベルヴィ香椎の問題に関わることはありませんでした。佐々木特別理事から「力を貸してほしい」と頼まれたため、建築構造に関するアドバイスをしたのです。

 マンションの構造的な欠陥を指摘し、対処法までアドバイスをしたにもかかわらず、「マンションの資産価値が下がった」と非難されることは、たとえば、船の航路の水面下に岩が潜んでいることを教えたところ「航路の危険が明らかになり、航路を変えざるを得なくなった」と非難されるようなものです。また、建物の床下に不発弾があることを知らせたら、「余計なことを言って、建物の価値を下げるな」と非難されることと同じともいえます。

 「水面下に隠れた岩」や「床下の不発弾」にたとえられる「マンションの瑕疵」を明らかにしたことにより価値が下がったのではなく、そもそもの瑕疵がマンションの価値を低下させているのです。佐々木特別理事はこの単純な理屈をはき違えており、もともと存在していた瑕疵を明らかにした第三者を非難することは、本当に正しいことでしょうか。

 ―六番館を「建替え」ではなく、販売会社による「買い取り」と決定した場合に考えられることはありますか?

 仲盛 六番館を現状のままで販売会社が買い取った場合、販売会社が是正措置を講じるはずはなく、違法状態が続くと考えています。そうすると、1つの団地のなかに違法・危険なマンションが存在し続けることになり、他の棟の区分所有者にとっては、1つの敷地内に違法建築物という爆弾を抱えることになります。

 六番館の住戸を販売会社側が買い取り、六番館の違法・危険な状態が継続するのであれば、六番館以外の区分所有者に対して1戸あたり500~600万円程度の補償をすべきではないかと考えます。

(つづく)

【桑野 健介】

※ 一団地認定
 建築基準法第86条および第86条の2の規定による「一の敷地とみなすこと等による制限の緩和(一団地認定制度および連担建築物設計制度)」は、一定の基準に従い総合的見地から設計された用途上可分の複数建築物について、同一の敷地内にあるものとみなすことにより、接道・容積率・斜線制限等の一定の建築制限を一体的に適用する制度。(福岡市ホームページより)

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