2024年04月27日( 土 )

傾斜マンション問題、ベルヴィ香椎の建替えに立ちはだかる壁(後)

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 福岡東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」(以下、六番館)の施工ミスに関して、販売会社である若築建設(株)・JR九州・福岡商事(株)の3社が「改修」「解体・建替え」「買い取り」の3つの案を示したことを受けて、六番館の管理組合は「一団地認定()」に関する調査を開始した。六番館の建替えを見据えた調査と考えられるが、六番館以外の棟の問題を残したまま、建替えが進められていくのか。さらに、六番館以外の棟の安全性・適法性は担保されるのか。構造設計一級建築士の仲盛昭二氏に意見を聞いた。

販売会社側の深慮・遠謀

 ―敷地内に違法建築物という爆弾を抱える状態を、六番館以外の区分所有者は受け入れることはできないのではないでしょうか。

 仲盛 この状態を解消するためには、行政庁である福岡市に是正命令を発するよう促すという方法があります。しかし、是正命令を受けるのは所有者(区分所有者であり管理組合)であり、所有者は販売会社に是正措置を求めることになります。

 ここで障壁となるのが マンション引き渡し後20年という除斥期間(時効のようなもの)です。民法上、除斥期間を過ぎていれば、瑕疵担保責任を追及されません。このマンションは引き渡しから25年が経過しているため、販売会社は当然、除斥期間を過ぎていることを主張するでしょう。

 六番館の特別理事らが、マンションの引き渡しから20年という期間内に紛争を解決できずに、無為な時間ばかりを費やしたことが、ここにも影を落としています。販売会社との交渉を続けてきたものの、 除斥期間を過ぎる前に解決できなかったことは、六番館の特別理事らのミスであったといえます。そのため、除斥期間を過ぎて販売会社側が示した案に飛び付いたのですが、そこには販売会社側の深慮遠謀が潜んでいました。

構造スリット工事完了まで、建替えに合意すべきではない

 ―販売会社側の深慮遠謀とは、どういうことでしょうか。

 仲盛 六番館の建替えのためには、区分所有法の定めにより、建て替える棟(六番館)の区分所有者の5分の4以上の決議に加えて、団地全体の区分所有者の4分の3以上の承認決議が必要となります<本記事(前)参照>。

 六番館以外の棟において判明している構造スリットの未施工を解決しないまま、六番館以外の区分所有者の承認決議(4分の3以上)が得られるとは考えられません。もし、私が六番館以外の区分所有者の立場であれば、構造スリットの是正工事が完了するまで六番館の建替えに合意しません。

 たとえ「六番館の建替え決議と承認決議の後、他の棟も対応する」と販売会社側が約束したとしても、信用できないことはこれまでの経緯から容易に想像できます。販売会社の若築建設・JR九州・福岡商事(=福岡銀行)はいずれも海千山千の企業です。団地全体の承認決議のハードルの高さをわかったうえで、除斥期間の超過という安全地帯に身を置き、最終的に自分たちの損失を最小限にする方向に導けると自信をもっているはずです。

 ―仲盛氏が、ベルヴィ香椎の問題点を指摘され続ける理由は、何でしょうか。

 仲盛 佐々木特別理事らは、区分所有者向けの文書のなかで、私に関する誹謗中傷を続けていますが、ベルヴィ香椎の問題点を指摘することは私には何の利益もありません。

 六番館のみの問題として終わらせるのではなく、ほかの棟の区分所有者も当事者意識をもって、ベルヴィ香椎全体の資産価値の回復と適法な状態への是正を考えるべきです。「ベルヴィ香椎全体の区分所有者が選択を誤らないように」と願っているだけです。

(了)

【桑野 健介】

※ 一団地認定
 建築基準法第86条および第86条の2の規定による「一の敷地とみなすこと等による制限の緩和(一団地認定制度および連担建築物設計制度)」は、一定の基準に従い総合的見地から設計された用途上可分の複数建築物について、同一の敷地内にあるものとみなすことにより、接道・容積率・斜線制限等の一定の建築制限を一体的に適用する制度。(福岡市ホームページより)^

(中)

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