2024年04月20日( 土 )

東京都が進める踏切対策~京王線高架化が実現するのはいつか?(後)

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東京都都市圏には、JR、私鉄、地下鉄を含め18社の鉄道会社があり、その路線数は84路線に上る。都心部の山手線内エリアに多くの鉄道網が集中しているが、これらの路線の大部分は高架化や地中化がすでになされている。都心部については、ほぼ踏切はなくなったと言って良いだろう。ただし、都心と郊外を結ぶ路線には、いまだに多くの踏切が残されている。都内に残る踏切の数はざっと1,000カ所以上で、うち約250カ所がいわゆる「開かずの踏切」(ピーク時に1時間あたり40分以上踏切が閉まる踏切)だ。開かずの踏切によって、朝夕に交通渋滞が発生。踏切事故、地域の分断などといった社会問題を引き起こしている。経済的な損失だけでなく、環境への負荷も見過ごせない。

1,800億円で、25の踏切解消へ(つづき)

 今回の連続立体交差事業にともない、区間中の7つの駅舎(代田橋、明大前駅、下高井戸駅、桜上水駅、上北沢駅、芦花公園駅、千歳烏山駅)もリニューアルされる。リニューアルに際しては、世田谷区が沿線住民などから駅舎デザインに関するアイデアを公募。応募のあった77件のアイデアを基に、京王電鉄が各駅の地域の特色などを加味したデザインで建築する。「地域の特色を駅舎デザインに反映するのは、都内でも珍しい」(東京都担当者)という。

 連続立体交差事業では、高架化するか地中化するかは、地形的条件、事業的条件、計画的条件という3つの条件の比較検討で決まる。地形的条件では、高架化、河川や地下埋設物などの地形的な制約、支障などを比較検討する。事業的条件では、事業費などを比較検討する。計画的条件では、除却できる踏切の数などを比較検討する。

 地中化する場合、掘割の環七と交差するなど地中埋設物の多さや、すでに高架化されている笹塚駅への擦りつけなどがネックとなり、高架化の方が3つの条件で優るという結論に至った。ところで、同区間には、地下に2線を建設し、地上と地下で複々線化する計画がある。複々線化を進める場合は、京王電鉄が事業主体になる。

 ただ、複々線化には、膨大な事業費などがネックになる。先に高架化すると、トンネルを掘り進めるためには、高架線の杭を一旦切除する必要もあり、複々線化着手の見通しは立っていない。なお、同じくJR東日本中央線(御茶ノ水駅~三鷹駅)、小田急電鉄小田原線(東北沢駅~和泉多摩川駅)はすでに複々線化されている。

22年度完了はほぼ絶望か

 8つある工区のうち、工事に着手しているのは、1工区、2工区、6工区、8工区。用地が確保できたところから、段階的に土留杭の設置や基礎杭の構築などの工事に着手している。京王電鉄担当者によれば、難施工が予想される工区は、取付部となる1工区と8工区だ。1区にある笹塚駅はすでに高架化されており、仮線を設置したうえで、高架橋への取り付け部分を撤去する必要があるためだ。1日10万人以上が利用する明大前駅も、利用者の動線を確保するうえで、課題があるそうだ。

 用地取得の進捗は4割程度(20年1月時点)。認可上の事業期間は22年度までになっている。小野寺課長は、「今後の用地取得の進捗によって事業期間が延期される可能性はある」としている。この点、用地買収の担当者も「いまだに『そもそも事業に反対』という方もいる。反対住民の理解をどうやって得るかが、今後の重要な課題になる」と話す。

 今後3年で残り4割の用地取得を完了させ、さらにすべての工事を終えるのは、夢物語だと言わざるを得ない。都や京王電鉄にとって、これ以上の工事の遅れは避けたいところだろうが、22年度事業完了を前提にした議論は現実的ではない。この点、関係者に「本当に工事が間に合うと考えているのか?」と問いただすと、「今は工期に間に合わせたいとしかいえない」と言葉を濁した。

鉄道インフラが抱えるリスク

 高架化は、踏切渋滞、事故という都市課題を解決するうえで有効な手段ではあるが、膨大なコストと時間がかかり、何より沿線住民の理解が不可欠ということもあり、難事業化する傾向がある。鉄道会社にしてみれば、高架化したところで、直接収益につながるわけではない。新型コロナウイルスによって、大幅な減収が続いている昨今の経営環境下にあってはなおさらだろう。乗客にとっても、乗車時間が短縮されるわけでもなく、そのメリットを感じにくい側面がある。

 テレワークなど新しい働き方が浸透し、東京の「通勤(痛勤)文化」が変容する可能性はあるが、それはそれで鉄道会社にとって痛手になる。鉄道インフラといえば、都市インフラのなかでも「利便性の象徴」というイメージしかなかったが、コロナによって、鉄道インフラが抱えるリスクというものが、顕在化しつつあるように思われる。

(了)

【大石 恭正】

(前)

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