川辺川ダムによる治水効果を再確認検証委、抜本的な対策は新会議体で(後)
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ダム中止は「最良の判断」だったのか?
以上が会合のあらましだが、会合後に蒲島郁夫・熊本県知事が応じた囲み取材で、いくつか気になる発言があった。
蒲島知事は、これまで議論を重ねてきたダム以外の治水対策について「(コスト的、工期的に)非現実的」としたうえで、川辺川ダムについて「完全に被害を防げるわけではないが、被害を減少させる効果があることはたしかなことが明らかになった」と述べた。
この発言を聞いて、てっきり蒲島知事が2008年に現行の川辺川ダム計画を白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追求すべきと表明したことについて、ミスを認めたと思った。ところが、自らの白紙撤回の判断については、「最良の判断をしたと思っている」とミスを全面的に否定。「今でも同じ判断をしたかどうか。歴史に“if”はないので、それはわからないが、結果的に多くの犠牲者が出たことは政治家として結果責任を深く感じている」と続けた。
意図が不明瞭な部分があるが、要するに「最良の判断をしたと思いながら、結果責任を深く感じている」といっているわけだ。そうだとすれば、かなりアンビバレントな思考状態にあると思われる。ただ、結果的に犠牲者を出したことには責任を感じているが、川辺川ダムを白紙撤回したことと犠牲者が出たことは関係ないと考えているとすれば、一応説明がつく。
しかし、どうこじつけても、ダム白紙撤回が「最良の判断だった」とする認識には首肯しかねる。ある情報筋によれば、この判断に対して熊本県議会や流域市町村などから反発の声が挙がったという。とくに自民党県連は激怒したらしく、蒲島知事はその後、県連との関係改善のために、相当苦労したらしい。この判断によって、蒲島知事自身、無傷ではいられなかったからだ。
経済合理性を欠いた判断だったという見方もできる。ダム白紙撤回を表明した時点で、すでに本体工事を除く大半のダム建設事業が完了していた。もう少しで完成していたものを途中でストップした。蒲島知事の判断は、数十年の年月、数千億円に上る国費をドブに捨てる行為、国損だった可能性がある。白紙撤回のタイミングが遅すぎたともいえる。
民意をはき違えていないか?
気になるのは今後の議論の行方だが、「客観的、科学的な検証結果を踏まえ、どのような治水対策を考えるかが、これからの議論の中心テーマになる」としたうえで、「(流域の安心安全のため、どういう治水対策にするかを打ち出すうえで)一番大事なのは、県民、流域の方々の民意だ」と語った。
この民意という言葉は、蒲島知事の口癖のようだ。ダムの白紙撤回についても、当時も現在も「民意によるものだった」と公言してはばからない。政治家がどんなデタラメな政策判断をしたとしても、民意に基づき判断したといえば、県民の意見を二分する難しい問題であればあるほど、それなりに世間に通るマジカルワードの趣すらある。
「人吉球磨の方々のために正しい判断をしなければならないと思っている」という発言もあった。政治家にとって、被災者に寄り添う姿勢を示すことは、いろいろな意味で大事なことだ。流域12市町村は、形式的には川辺川ダム建設推進で一枚岩になっているが、被災者のなかには、ダム建設の反対運動家が中心となって結成された市民団体も存在する。「民意と膏薬はどこにでもつく」感がある。
民意とは、十人十色なうえに、空気によってうつろいやすい厄介な代物なのだ。それを見極め、正しい判断をするのは、誰にとっても容易なことではない。それを熟知しながら、自分にとって都合の良い意見を民意と考える政治家は少なくない。蒲島知事には立場上、民意を見定め判断を下す権限はある。ただ、過去の経緯を踏まえると、その資格があるかどうかは別問題だということは指摘しておく。
(了)
【大石 恭正】
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