2024年04月25日( 木 )

【凡学一生の優しい法律学】学術会議推薦無視事件(5)総理大臣の違法・犯罪行為の自白

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 10月21日、菅総理大臣は外遊先で記者会見し、今般の学術会議推薦無視について、「前例を踏襲してよいのかを考えた結果だ」と説明した。これが論理的な違法・犯罪行為の自白であるとどれほどの日本人が理解できただろうか。

1.前例踏襲という詭弁

 行政執行に限らず、前例踏襲とは過去に何度か執行された形態・形式を繰り返すことを意味する日本語である。しかし、この言葉を「法に従った手続」について用いるのは、特殊な場合についてのみである。

 一般的には、法の規定に従った手続の履行を前例踏襲とは言わない。たとえば、裁判所に民事訴訟を提起する際に提出する訴状の記載内容については民事訴訟法に規定されており、同法に従った内容の訴状でなければ訴えは却下される。日本全国の裁判所で繰り返されていることだが、「前例踏襲」とは言わない。

 行政権の執行は主権者である国民から内閣総理大臣に委任され、内閣総理大臣がそれぞれの国務大臣を任命して執行する。具体的な行政執行業務・事務はさらに各省庁の公務員に委任して執行され、委任の範囲内で実際の執行者である公務員が効率などを考慮して創意工夫して行う部分が含まれる。

 この具体的な業務執行での委任の範囲内で(法律的には委任の趣旨・本旨に反しない限度での受任者の自由裁量権限という)形成されてきた方式とその繰り返しを「前例踏襲」という。つまり、行政執行における前例踏襲とは、自由裁量を前提に形成され繰り返されてきた事例・方式を意味する日本語である。 
 そのため菅総理大臣の前例踏襲という用語は、正当な行政執行と誤解させる詭弁である。以下に詳しく説明する。

2. 菅総理大臣会見内容の法律的意義

 学術会議会員の任命は総理大臣の自由裁量的任命権の行使であり、従来までは法文上の規定に従い、「学術会議の推薦に従ってきた」にすぎず、今回は原則に帰り、自由裁量権の行使として前例踏襲を見直した、という意味になる。

 任命権が自由裁量により認められる場合には、条件や前提はない。学術会議法の条文では、総理大臣の任命行為には「学術会議の推薦に基づき」とあり、明白に自由裁量権が否定されている。もちろん従来の内閣(つまり内閣法制局)も、これまで当然の解釈を表明してきた。今回は明らかに菅総理大臣が法令の規定を恣意的に解釈して違法な行為をとっている。その結果、学術会議の推薦権を侵害し、6名の学者にとって学術会議会員となる法的利益を侵害したものであり、公務員職権濫用罪(刑法第193条)に該当する。

 国会議員、とくに野党議員はこの総理大臣の違法・犯罪行為を単に多数決で否定されるに決まっている国会内の議論に留めることなく、刑事告訴・告発して検察権力の発動を促すべきであり、報道関係者・記者は国民に法的正義の実現を目指して、報道言論活動を広く行うべきではないか。

(了)

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