2024年04月25日( 木 )

戦前の空き家30軒以上を改修、大阪・蒲生4丁目が飲食店でにぎわうまちに(前)

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空き家は全国846万戸

 全国で増え続ける空き家の数は、約846万戸(2018年住宅・土地統計調査)。大阪市城東区蒲生4丁目(通称:がもよん)周辺では、築100年近くが経過し空き家になっていた地域一帯の民家30軒以上をまちぐるみで飲食店に改修し、地域の人が多く訪れるまちとしてにぎわいを取り戻している。

 蒲生4丁目は、大阪城の東側の長堀鶴見緑地線・今里線の蒲生4丁目駅付近のエリアで、大阪の繁華街のある心斎橋・難波から電車で15~30分ほどの落ち着いた下町だ。第二次世界大戦の空襲で焼けずに残った築70年の木造古民家が立ち並び、城東区の人口密度は西日本では一番高く全国6位(19年)。半径2kmのエリアに約7万人が暮らしているといわれている。

 戦前に借家が建てられたころは築浅で多くの人々が移り住んだが、約70年を経て高齢化が進み、マンションや子どもの住宅、老人ホームなどに移る住民が多く、「空き家化」が進んでいた。

まちぐるみで空き家再生

R-PLAY(株)
代表取締役 和田 欣也 氏

 蒲生4丁目の空き家を再生する「がもよんにぎわいプロジェクト」の発起人であり、運営者のR PLAY(株)の代表取締役・和田欣也氏は、プロジェクトのきっかけについて次のように話してくれた。

 「蒲生4丁目付近一帯の不動産を所有する杦田(株)の代表取締役・杦田勘一郎氏から、築120年の米蔵の活用について相談を受けた。古い建物の持ち味を生かし次の世代に残したいという杦田氏の思いから、08年に『ジャルディーノ蒲生(現・リストランテ イル コンティヌオ)』というイタリアンレストランに改修したことがきっかけ。それまで耐震工事コンサルタントを本業としていたが、空き家を再生するならまちごと取り組みたいという意気込みから、今回のまちぐるみの古民家改修につながった。老朽化した空き家は経年劣化が進み、台風の被害などで修繕が必要だが、借り手が見つからず、固定資産税がかかることが課題だった」。

リストランテ イル コンティヌオ

 空き家は地主が約300万円の費用を負担して耐震設計を含めた基礎工事を行い、飲食店に貸し出す。和田氏は、「耐震構造のために壁や柱を取り外せず間取りの制約が多いため、飲食店はビルの空きテナントを借りるほうが楽だろう。しかし、古民家の店舗はニッチな市場であるがゆえに、その趣を気に入って『制約があっても借りたい』というニーズがあり、問い合わせからの成約率はおよそ8割。プロジェクトを開始した当時は、古民家を扱う不動産会社が少なかったこともその理由だろう」と話す。

 都市の人気エリアに飲食店を出店すると家賃も高くなりがちだが、地域住民、常連客の利用が多く、固定費を抑えられる古民家エリアの蒲生4丁目で出店するという選択肢もある。和田氏は、「福岡では、古民家があって繁華街が近く、周囲の環境が良い大濠公園エリアが、古民家を改修して飲食店として再生できるまち」だという。

 蒲生4丁目の飲食店では、地元客が約7割を占め、遠方からの利用客が残りの約3割という。繁華街である隣町の京橋に近い住宅街の立地で、地域のつながりが強く地元の常連客の応援があるため、繁華街にある飲食店に比べてコロナ禍による利用減の影響が少ないようだ。地元客のテイクアウトや「家の近くのレストランに出かけたい」というコロナ禍での需要をつかんでいる。

 プロジェクトを開始した当初、古民家が立ち並ぶ蒲生4丁目が飲食店でにぎわうことが想像できず、先行きを危ぶむ人が多かったが、今では「空き家が多かったまちがにぎわってよかった」と活性化を体感する声が多い。

 和田氏は「アートでまちおこしという方法もあるが、ほとんどの人はアートを購入するのは一生に1度ほどだ。一方、飲食店は年に何度か外食する際に、多くの人々が利用する。地域の人にも利用してもらえて、地域にも受け入れられやすいことが飲食店を選んだ理由」と話す。

 まちおこしは行政が関与し、補助金や助成金を受け取る事例が多いが、蒲生4丁目では、自由度を取り入れて枠にとらわれず、ルールに縛られ過ぎないほうが、運営者が力を発揮できて店主も訪問者も楽しめるまちができるという思いから、補助金と助成金に頼らずに進めてきたという。

 空き家のリノベーションや飲食店の設備など、開店費用の約1,500~2,000万円は店舗のオーナーが負担するが、10年以内に償却可能と見込まれており、古民家を生かした飲食店運営が十分に成り立つ仕組みをつくっている。飲食店は空間の快適さが大切であるため、古民家にありがちな隙間風や立て付けの音などの対策に、住居の改修時よりも注意を払っている。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(中)

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