2024年05月05日( 日 )

傾斜マンションベルヴィ香椎六番館の建替え 六番館以外の住戸も売却が困難に(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 マンションの傾斜に関し、建替えが決議された福岡市東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」では、建替えを行う六番館以外の棟についても売却が困難な事態となっている。

 六番館の建替えについては、六番館の区分所有者の5分の4以上の多数による決議の後、他の棟も含めたベルヴィ香椎の全区分所有者の4分の3以上の多数による決議を経て、六番館の建替えが決定した。これは六番館だけの建替えが決議されたのであり、他の棟は建替えられないまま残ることになる。

 六番館以外の棟は傾斜していないにもかかわらず、売却が困難なほどの資産価値の低下を招いている。そもそも築後25年以上経過しており、年数なりの経年劣化はあるものの、JR駅から徒歩数分という立地は、中古マンションとしては魅力あるものであった。このような異常な事態となった背景について、このマンションの欠陥を指摘してきた構造設計一級建築士の仲盛昭二氏に話を聞いた(聞き手:桑野健介)。

1 棟配置
1 棟配置

 -ベルヴィ香椎では、建替えが決定して六番館以外の棟で売りに出されていた部屋が数カ月も売れていない状況となっています。傾斜していない棟まで風評被害がおよんでいるのでしょうか?

 仲盛 私が知っている不動産業者に聞いてところ、テレビで報道されたことによりベルヴィ香椎の名前が知れ渡り、六番館以外の棟であっても売れないだろうとのことです。また、建替え後の六番館を売ることについても、2年後のマンション相場が読めない(現在の相場は全体的に下がっている)ため、現時点では何ともいえないということでした。

 -六番館の希望者には買い取りも行われるようですが、納得できるような買い取り金額ではないそうです。

 仲盛 築後25年経過しているマンションと考えれば、買い取り価格は低くなるはずです。しかし、欠陥マンションであるために区分所有者は手放さざるを得なくなったのですから、買い取り価格にはそのような事情も加味すべきだと思います。

 迷惑料も提示されていますが、居住年数により40~500万円となっています。500万円というのはもっとも不具合がひどい住戸であり、実質的な上限は分譲当初からの住戸で100万円。長期間の苦痛に対する迷惑料としては、あまりにも人を馬鹿にした金額だと思います。

 -六番館を建て替えたとしても、他の棟に問題が残りますね。

 仲盛 ベルヴィ香椎の六番館以外の棟でも構造スリットの未施工が判明しています。これも、杭長不足と同様、施工業者の手抜き工事によるものです。六番館を建て替えて新築になったとしても、他の棟の欠陥が残ったままになるため、私は「全棟を建て替えるべき」と訴えてきました。

 私が「全棟建替え」を訴えたことに対して、ベルヴィ香椎管理組合の特別理事らは「仲盛やデータ・マックスが報じたからベルヴィ香椎の資産価値が下がった」と区分所有者たちに強調していたそうですが、特別理事らも積極的にテレビ報道に出演していました。

 マンションの資産価値が下がった原因は報道によるものではなく、施工の不具合によるものです。以前から不具合があり、そのためにマンションの資産価値が下がっているのです。

2 杭
2 杭

 仮に、マンションの不具合を隠して売却をしようとしても、杭長不足や構造スリット未施工といった構造的に重大な不具合は、重要事項説明書に必ず記載しなければなりません。これを隠して売却した場合、売り主は賠償責任を負います。

 恐らく、特別理事たちは、マンションの不具合が重要事項説明の対象であることなど頭になく、「自分たちの六番館さえ建替えられれば良い」「ほかの棟のことは知らない」と考えていたはずです。ですから、今になって、六番館以外の住戸が売却できない事態となっているのです。こういう事態になることが容易に予想できたため、私は「六番館以外の区分所有者による建替え承認決議は慎重に」と警鐘を鳴らしてきたのです。しかし、六番館以外の区分所有者に理解していただけず、予想通りの事態となってしまったことを 非常に残念に思います。

(つづく)

【桑野 健介】

▼関連サイト
毀損したマンション資産の価値を取り戻すニュース

(中)

関連記事