2024年05月06日( 月 )

傾斜マンションベルヴィ香椎六番館の建替え 六番館以外の住戸も売却が困難に(中)

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 マンションの傾斜に関し、建替えが決議された福岡市東区の分譲マンション「ベルヴィ香椎 六番館」では、建替えを行う六番館以外の棟についても売却が困難な事態となっている。

 -なぜ、六番館管理組合の特別理事たちは 六番館だけの建替えにこだわったのでしょうか?

 仲盛 すべての棟を建て替えるには、六番館の建替えの7~8倍前後の費用がかかると思われます。それゆえ、JR九州や若築建設ら販売JVは、六番館だけを建て替えることにより、世間的にもクリーンなイメージを残そうと考えたはずです。六番館の特別理事たちと販売JVの思惑が一致して 六番館の建替えへ急速に進んだのです。

 -なぜ、六番館以外の区分所有者は、六番館の建替え承認を決議したのでしょうか?

 仲盛 住人から聞いた話では、六番館の特別理事たちは「六番館の建替えが決議された後に、他の棟の補修の交渉を行うので、六番館の建替えが決議されなければ全体の補修の交渉はできない」と聞かされ、六番館の建替え承認に賛成する人が多かったと聞きました。

 -下がってしまった六番館以外の棟の資産価値を回復させるのは、補修で十分なのでしょうか?

 仲盛 既存の建物に構造スリットを追加することは、不完全な状態であれば技術的には可能です。しかし、すでに固まっているコンクリートを破壊し、鉄筋を切断して 構造スリット材を設けた後にモルタルで躯体を修復するので、当然のことながら、建物としての強度は低下しますし、スリットを設けた部分からの漏水の可能性もあります。

 このようなデメリットを考えれば、六番館以外の棟も建て替えるべきだと思います。なぜ、最初から全棟建替えで交渉をしなかったのか不思議でなりません。

 -最初から全棟建替えでの交渉は難しいので六番館だけの建替えでの交渉を行ったとも推測できます。

 仲盛 恐らくそのような理由であったと思いますが、それこそ、JR九州ら販売JVの思う壺だったと思います。とくにJR九州は会社のイメージダウンを避けるためには、交渉の方法次第では、全棟の建替えであっても受け入れざるを得なかったと思います。結果的に、六番館だけの建替えで合意したため、販売JVを助け、六番館以外の区分所有者を見捨てることになってしまいました。

 -ベルヴィ香椎は団地型マンションとなっているので、六番館以外の既存の棟も含めて、再度、建築確認を申請することになります。

 仲盛 以前に私が指摘していますが、ベルヴィ香椎の構造計算においては、柱梁接合部の検討が行われておらず、地震が発生した場合の柱梁接合部の安全性が確認されていません。これは、ベルヴィ香椎の建築確認当時、福岡市がチェックしていなかったからですが、現在の建築確認においては必ずチェックされます。

 当然、六番館の建替え設計においても柱梁接合部の検討を行うことになりますが、六番館以外の既存の棟は 柱梁接合部の安全が確認されていません。1つの団地型マンション内に安全を確認された建物と安全を確認されていない建物が混在することになります。この状態で建築確認済証が交付されるとは考えられません。

 -構造スリットについても、建替えによって構造スリットが図面通りとなる六番館と、図面通りに施工されていない六番館以外の棟が混在することになります。この状態で団地型マンションとして確認済証が交付されることには、市民として疑問を抱きます。

 仲盛 構造スリットが図面通りに施工されていないことを管理組合が認めている建物を含めて確認済証を交付するとすれば、それは建築確認制度を逸脱しています。もし、福岡市が確認済証を交付するならば、それは超法規的措置によるものとなるはずです。超法規的措置とはいえ、六番館以外の棟の安全が確認されていない状態は続いています。六番館以外の棟の住人は、これで納得するでしょうか?誰もここまで考えたうえで建替えを承認したわけではないはずです。

 もし、福岡市が、超法規的措置でベルヴィ香椎に建築確認済証を交付するなら、私は福岡市にその法的根拠を尋ねます。建築確認は羈束行為なので、超法規的措置のような主観が入り込むものではありません。建築基準関係法令に照らして、適合か否かを判断するものです。羈束行為として実施しないのであれば、建築確認制度そのものを否定することになります。

(つづく)

【桑野 健介】

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