【流水型ダムを考える】蒲島知事も私たちも「無罪」ではない(前)
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前熊本市長 幸山 政史 氏
蒲島郁夫熊本県知事は2020年11月20日、赤羽一嘉国土交通大臣と面会。既存の川辺川ダム計画を廃止し、新たに流水型ダム(穴あきダム)を建設する旨、要望した。12年前のダム白紙撤回から一転、真逆の政策判断を下したことになる。「君子は豹変す」という言葉が示すように、意見をガラリと変えること自体は問題ではない。問題があるとすれば、自ら下した判断にどう向き合うかにある。この点、蒲島知事は、いずれの判断も「民意によるもの」だとして、過ちを改めるどころか、過去の自分を擁護するような姿勢をとり続けているように見える。この蒲島知事の姿勢について「民意をタテにした保身」と批判するのが、過去に2回、熊本県知事選を戦った前熊本市長・幸山政史氏だ。流水型ダム要望にはどのようなウラがあったのか。蒲島知事、熊本県政が抱える問題点などを含め、話を聞いた。
穴あきダムについて何も判断せず
――蒲島知事は2020年11月、「命と環境の両立」のためということで、流水型ダム(穴あきダム)建設を国に求める要望を行いました。ただ、流水型ダムは、08年に蒲島知事がダム計画を白紙撤回する以前から、国が提案していたものです。かつて自ら捨てたものを「これしかない」といって拾い上げる姿は、いかにも奇妙な感じがします。
幸山 蒲島知事は08年9月の県議会定例会冒頭で、ダム計画の白紙撤回を表明しました。この一連の発言のなかで、穴あきダムについて、こう触れています。
「先日、国土交通省から、新たな手法として、環境に配慮した穴あきダムの提示がありました。これは突然に提示されたものでありますし、ダムによらない治水案を追求した結果提示されたものかどうかの疑問が残りました。また、穴あきダムの環境への影響や技術的な課題について詳細な説明がない現状では、その是非について判断することはできないと考えております」。
――穴あきダムについては、何ら判断しなかったんですね。
幸山 突然も何も、当時は県内の白川の治水対策として、穴あきダムである立野ダム計画が進んでいました。河川の違いこそあれ、その穴あきダムを何も判断しないまま、蹴っていたわけです。今回は穴あきダムではなく、流水型ダムと呼び名を変えたがっているようですが、基本的に同じ穴あきダムを国に要望しており、完全に矛盾していますよね。彼の過去の発言と比較すると、矛盾だらけです。
――現時点で、国から「穴あきダムの環境への影響や技術的な課題について詳細な説明」があったという話は出ていません。それなのに、よく国に穴あきダムを要望できたものだなという感じも残ります。
幸山 一言でいえば「結論ありき」だったのでしょう。「民意をタテにした保身」に加え、「流水型ダム」や「緑の流域治水」という、何となく聞こえの良い言葉に食いついただけだと思います。現行のダム計画を廃棄させ、環境アセスメントは求める方針なのだそうで、結果、かなりの期間を要することになります。今回の知事の判断では、何も解決されずに、1966年に時計の針を戻しただけだと思います。
(つづく)
【大石 恭正】
<プロフィール>
幸山 政史(こうやま・せいし)
1989年3月、九州大学経済学部卒業。同年4月日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)入社。95年4月熊本県議会議員に当選(2期)。2002年11月熊本市長に当選(3期)。16年3月熊本県知事選に出馬するも、蒲島氏に敗北。20年3月熊本県知事選に挑むも、再び蒲島氏の後塵を拝した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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