【流水型ダムを考える】立野ダム工事事務所長に聞く なぜ白川流域に立野ダムが必要なのか?(前)
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国土交通省九州地方整備局
立野ダム工事事務所 所長
阿部 成二 氏白川上流部、阿蘇くじゅう国立公園内で現在建設中の「立野ダム」(熊本県大津町、南阿蘇村)。2020年10月には本体部分のコンクリート打設がスタート。熊本地震の影響により、工事着手が1年遅れたものの、23年3月の完成に向けて、これまでのところ順調なペースで工事が進んでいる。立野ダムは、平時は水を貯めない流水型(穴あきダム)で、河川水質など環境への影響を低減しながら、必要な治水効果を確保できるメリットがある。なぜ白川流域に立野ダムが必要なのか。なぜ流水型ダムなのか。国土交通省九州地方整備局立野ダム工事事務所の阿部成二所長に話を聞いた。
白川はいつ洪水が起きても不思議ではない
――白川流域と立野ダムの関係を教えてください。
阿部 白川は、流域の8割を阿蘇地域が占めている点が特徴です。白川を流れる水の多くは、立野ダム建設予定地の上流域で集められているわけです。逆にいえば、立野ダム建設予定地の下流域は、河岸段丘の一番低い部分を流れており、あまり水は入ってきません。
最下流域には、政令指定都市・熊本市があり、その市街地の中心部を流れています。熊本市は、江津湖があるところまでもともと海でしたが、白川から流れた土砂の堆積によって、平野部が形成された歴史があります。そのため、今でも川の部分が高くて、平地部分が低いという特殊な地形が残っています。白川沿いには、熊本市だけでなく、熊本県全体の経済を支える住宅や商業施設などの資産が多く集積しています。
下流域に位置する熊本市内での洪水発生リスクが高く、ひとたび水があふれると、大きな被害が出やすいという特徴が白川にはあるわけです。
白川では実際、1953年に「昭和28年6月26日洪水」、地元では「6.26水害」ともいわれる水害が発生しています。その後も幾度も洪水の危険に晒されてきており、最近では2012年の「平成24年7月洪水」により、少なからず被害が出ています。この洪水被害の経験は、今でも流域の方々の記憶に残っており、流域の方々は「いつ洪水が起きても不思議ではない。何らかの治水対策が必要だ」という当事者意識をお持ちです。
周囲の景観や川の流れに影響が少ない流水型ダム
――治水に対する正しい地元理解があったわけですね。
阿部 そうですね。立野ダムは、阿蘇くじゅう国立公園のなかで建設を行っております。自然環境保護を考えれば、普通はあり得ない立地ですが、治水ダム専用と割り切って、貯留型ダムではなく、流水型ダムを採用しました。流水型ダムは普段水を貯めないので、貯留型ダムに比べ、周囲の景観や川の流れへの影響が少ないというメリットがあります。流域の方々には、流水型ダムのメリットを含め、総合的にご判断いただき、立野ダム建設に対し「GOサイン」を出していただいたものと承知しています。
――ダム立地自治体は、反発することが多いと思われますが…。
阿部 それはそうですね。ただ、立野ダムの場合、地元自治体へのメリットはかなり考慮しながら、事業を進めてきました。一般的な貯留型ダムは、新たにダム湖が生まれ、新たな景観を創出するというカタチで、観光資源を創出するというメリットがあります。この考えでいくと、流水型ダムにはダム湖はできませんから、観光資源の創出にはつながらないということになってしまいますが、立野ダムはそうではありません。
立野ダムはそれを逆手に取って、観光資源につなげる取り組みを進めています。立野ダム周辺には、柱状節理や原始林などの豊富な自然がありますが、ダムに関連する道路などが整備されることによって、それらを間近で安全に見ることができるようになります。こういうことも、かなり早い段階から地元の首長さんにダム建設を受け入れてもらえた要因になっていると考えています。
(つづく)
【大石 恭正】
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