2024年04月25日( 木 )

【流水型ダムを考える】立野ダム工事事務所長に聞く なぜ白川流域に立野ダムが必要なのか?(中)

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国土交通省九州地方整備局
立野ダム工事事務所 所長
阿部 成二 氏

 白川上流部、阿蘇くじゅう国立公園内で現在建設中の「立野ダム」(熊本県大津町、南阿蘇村)。2020年10月には本体部分のコンクリート打設がスタート。熊本地震の影響により、工事着手が1年遅れたものの、23年3月の完成に向けて、これまでのところ順調なペースで工事が進んでいる。立野ダムは、平時は水を貯めない流水型(穴あきダム)で、河川水質など環境への影響を低減しながら、必要な治水効果を確保できるメリットがある。なぜ白川流域に立野ダムが必要なのか。なぜ流水型ダムなのか。国土交通省九州地方整備局立野ダム工事事務所の阿部成二所長に話を聞いた。

河川工学の観点から流水型ダム一択

 ――国直轄としての流水型ダム建設は立野ダムが初めてのようですが、そもそも、なぜ流水型ダムを採用したのでしょうか。

阿部 成二 氏
阿部 成二 氏

 阿部 ダムには、必ずメリット、デメリットがあるものですが、通常は、多くのメリットが受けられる多目的ダムを建設することがほとんどです。しかし、白川でダムを建設するメリットは、計画当初から治水のみだと考えられていました。そこで、白川の洪水特性や周辺環境などを考慮した結果、流水型ダムが最適であるという判断に至ったと理解しています。

 ――白川の河道拡幅とか、河床掘削などの河岸整備による治水対策は、それほど有効ではなかったようですね。

 阿部 そうですね。2012年に行ったダム検証の際には、河道拡幅や河床掘削、遊水地整備など、ダム以外の治水対策の組み合わせについて議論がなされました。河道拡幅については、下流域ではすでに成熟した都市機能が形成されており、コスト、技術などを考えると、現実的ではないということになりました。河床掘削は、技術的には可能ですが、部分的に橋の架替えなどの関連工事をともなうことから、ダムと比較して時間もコストもかかります。何より白川下流域は、地形的に土砂が堆積しやすいため、川の洪水を流す断面を確保するには、頻繁に河床掘削を行わなければなりません。コストや早期の治水効果発現の観点から、立野ダムが最も優位であるという判断に至ったと思います。

 黒川は縦断勾配が意外と緩やかなのに対し、白川は急峻なのです。緩やかな方が遊水地をつくりやすいので、地形に合わせた治水対策を選択することが重要です。そのなかで、流域面積の8割を占める阿蘇外輪山の出口付近にダムをつくって、一時的に水を貯めるというのが、理にかなっているわけです。

治水対策の基本はトータルで判断すること

 ――立野ダムを含め治水対策は、自然環境とトレードオフの関係にあるといえますか。

 阿部 そう思います。ダムは万能ではなく、治水ツールの1つに過ぎません。ダムなどの治水対策を講じることによって、自然環境に何らかの影響が出るのは事実です。治水対策は必ずデメリットもともなうのです。ただ一方で、生命や生活を守るというメリットも必ずあります。メリット、デメリットの大きさは、河川によって違ってくるわけですが、大事なのは、その河川トータルとして、ダムなどの治水対策が必要なのか不要なのかを判断することが基本だと考えます。

 私自身、今はダムの工事事務所の所長という立場ですが、理想をいえば、川にダムなんかないほうが良いと思っています。川が一番低い場所を流れていれば、堤防や護岸すら不要だと思っています。しかし、すでに享受している文化的な生活をすべて犠牲にしてまで、理想を求めるわけにはいきません。文化的な生活を守るためには、どこまで自然を犠牲にすることができるかについて、メリット、デメリットを勘案したうえで、トータルで判断すること。これが、我々が日々一生懸命取り組んでいる仕事なのです。

 たとえば、家を新築した人がいたとして、実はその土地が5年に1回は浸水する場所だった場合に、河川管理者として、その状態のまま放置していいのか。我々としては当然、何らかの治水対策を打たなければならないと考えます。大げさかもしれませんが、対策を打たなければ、家を建てた人の人生を変えてしまう恐れがあると思うからです。

本体コンクリート打設工事が進む立野ダム(12月上旬撮影)
本体コンクリート打設工事が進む立野ダム(12月上旬撮影)

 ――治水対策に対する流域住民の理解は、まだまだ十分ではないという印象があります。

 阿部 河川工学の経験などがある方は、過去の降雨量の確率計算をすれば、どれぐらいの降雨リスクがあるか、だいたいわかると思います。ただ、一般の方々は、たとえば「150年に1回の降雨」と聞くと、「150年間隔で降る」と誤解する方もいらっしゃると思います。確率論なので、2年連続で150年確率規模の降雨が発生することもあるわけですが、「今年降ったので、今後数十年間は降らないだろう」と誤解してしまうということです。この辺をきちんと理解していただくことは、我々河川管理者の仕事なのですが、それがなかなかうまくいっていない部分はあると思っています。難しいところです。

(つづく)

【大石 恭正】

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