2024年04月20日( 土 )

【流水型ダムを考える】立野ダム工事事務所長に聞く なぜ白川流域に立野ダムが必要なのか?(後)

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国土交通省九州地方整備局
立野ダム工事事務所 所長
阿部 成二 氏

 白川上流部、阿蘇くじゅう国立公園内で現在建設中の「立野ダム」(熊本県大津町、南阿蘇村)。2020年10月には本体部分のコンクリート打設がスタート。熊本地震の影響により、工事着手が1年遅れたものの、23年3月の完成に向けて、これまでのところ順調なペースで工事が進んでいる。立野ダムは、平時は水を貯めない流水型(穴あきダム)で、河川水質など環境への影響を低減しながら、必要な治水効果を確保できるメリットがある。なぜ白川流域に立野ダムが必要なのか。なぜ流水型ダムなのか。国土交通省九州地方整備局立野ダム工事事務所の阿部成二所長に話を聞いた。

23年3月の完成に向け工事は順調に推移

 ――工事の進捗はいかがですか。

阿部 成二 氏
阿部 成二 氏

 阿部 18年8月に立野ダムの着工式を執り行い、基礎掘削を始めました。約70万m3の岩盤の掘削が終わり、20年10月から本体基礎地盤部分のコンクリート打設工事に入っています。熊本地震の影響で少し工事スタートが遅れ、20年に入って新型コロナウイルスにともなう影響も心配されましたが、23年3月の完成に向け、今のところ順調にきています。立野ダムは国直轄ダムとしては小型のダムです。谷が狭くダムサイトが小さいので、そもそも大きなダムはつくれません。

 ――本体基礎の部分の工事は、ダム工事でかなり重要な部分ではないですか。

 阿部 一番大事ですね。最初は荒掘削で一気に掘ります。ダイナマイトや重機などを使って掘り進めるのですが、その後、最後の仕上げとして人がハンマーなどを使って整えます。そして、水で洗って、掃除機でゴミなどを吸い取ります。最終的には、スポンジなどを使って、人がなめても大丈夫なほどピカピカに仕上げます。そこまでしないと、基礎と本体がピタッとくっつきません。ダムは規模が大きな土木構造物であることが注目されますが、最後の仕上げは人の手が必要なほど、実は非常に繊細な構造物です。高さ100mの水圧は、砂粒程度の隙間であっても滲み込んでいくので、ダムには高い水密性、高い強度が求められるわけです。

流水型ダムは観光資源、地域振興の重要なツール

 ――観光資源としての立野ダムの活用にも取り組んでいますね。

 阿部 ええ。私は19年に立野ダム工事事務所の所長に着任したのですが、そのとき、職員に対して「流水型ダムの新たな価値を見出そう」と言いました。景観に溶け込むダムとか、環境に優しいダムをつくるということもありますし、ダムは地域振興のための重要なツールという視点もあります。

 「TATENO・D」というキャッチフレーズも私がつくったのですが、この「D」はダムではなく、デザインのDです。我々は、立野と名の付くものすべてをデザインしているのだという意味を込めています。それはダムであり、地域であり、働き方であったりします。今は工事中なので、インフラツアーがメインですが、完成後は、ダムそのものを使って何ができるかについて、南阿蘇村や大津町と一緒にいろいろ考えているところです。たとえば、ダム施設であるトンネルのなかでワインを貯蔵するといったことなどを考えています。

立野ダム(中央赤字部分)の広報ツールとして作成された白川流域立体地図
立野ダム(中央赤字部分)の広報ツールとして作成された白川流域立体地図

(了)

【大石 恭正】

(中)

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