2024年04月26日( 金 )

半導体市場の変化で快進撃のTSMC(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大で、ネット取引が急増して半導体の需要が急激に伸びているが、今後はオンライン取引やAIによる技術革新よりも、自動運転が半導体需要の増加をけん引すると予測されている。
 今回は、急拡大する超微細工程の半導体生産を一手に引き受けて世界で1人勝ちしている台湾企業TSMCと、それを支えているオランダ企業ASMLを取り上げたい。

 半導体の受託生産事業は、生産工程が超微細化して巨額の設備投資が必要となり、どの企業でも参入できる市場ではないため、TSMCの独走が続いている。

 TSMCは超微細工程を利用して、天文学的な数の半導体を安定的に生産できる数少ない会社の1つだ。TSMCは半導体需要に追い付くために、250億ドル~280億ドル(約2兆6,000~9,000億円)の追加の設備投資をすることが発表されている。その投資のなかには、5nm(ナノメートル)のチップが生産できる工場を、米国のアリゾナ州で120億ドルを投じて建設する計画も含まれている。またTSMCは、台湾の台南市の近くに3nmプロセスの工場建設を予定し、2022年後半から量産を計画している。

 TSMCは3,000~4,000社以上の取引先をもち、以前から半導体受託生産の50%前後のシェアを占めていた会社である。TSMCの1人勝ちの秘訣は、長年にわたって蓄積された技術力だけでなく、発注を受けてから生産に入るという在庫をもたない盤石のようなビジネスモデルである。

 一方、半導体全盛時代になり、オランダ企業のASMLにも注目が集まっている。ASMLは、極紫外線(EUV) の露光装置を生産している世界で唯一の会社だ。露光装置とは、半導体のウェーハに回路を焼き付けるときに必要な装置であり、光の波長が短ければ短いほど、ウェーハに微細回路を焼き付けることが容易になる。ASMLの装置は既存設備で用いる光の波長の193㎚に比べて、14分の1の水準である極紫外線を使っているので、線幅を小さくできる。

 ASMLの露光装置は受注が増加し、現在は発注後、納入されるまで1年以上も待たないといけない状況だ。露光装置の製作は、5カ月もかかるという。ASMLは現在の露光装置の開発に20年以上もかかっており、とても難易度の高い技術力が要求されるようだ。

 露光装置は以前、日本メーカーのニコン、キヤノンなども製造していたが、それらの企業は市場から姿を消し、ASMLの1人舞台となってしまった。ASMLは米国のナスダックに上場しているが、株価も高止まりしている。時価総額では、半導体の王者であったインテルさえ上回っている。ASMLの昨年の売上高は140億ユーロ(約1兆7,700億円)、当期純利益は36億ユーロ(約4,500億円)だ。

 このように半導体受託生産企業の全盛時代が到来するなか、TSMCに挑戦状をたたきつけているのがサムスン電子である。サムスンはメモリ分野では世界王者であるが、激しい需要の変化に悩まされており、それらを補強する策として半導体受託生産事業にも力を入れている。サムスンは、市場シェアでTSMCと30%以上の開きがあり、ライバルといえるかわからないが、サムスンは受託事業で一定の成果を上げている。

 サムスンは、クアルコムのアプリケーションプロセッサーであるスナップドラゴン875を5nmプロセスで受託生産する案件を受注したと発表している。このチップはサムスンのスマホをはじめ、中国のシャオミやOppoなどの高級機種に採用予定である。

 サムスンは今回、初めてクアルコムの案件を全量受注し、受注金額も1兆ウォン(約937億円)以上という快挙であった。それだけでなく、エヌビディアのGPUの2次生産分の受注にも成功し、受託生産事業の地盤を固めている。第4次産業革命に欠かすことのできない半導体産業をめぐって、業界の動向から目が離せない。

(了)

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