2024年04月17日( 水 )

【八ッ場ダムを考える】群馬県は水没住民と どう向き合ってきたのか?(後)

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 国直轄ダムの八ッ場ダムであるが、水没自治体である長野原町、その住民との交渉などを実質的に担ってきたのは、ダム受益者でもある群馬県だった。県は1993年、水没住民やダム周辺住民の生活再建や地域振興を目的に、出先機関である八ッ場ダム水源地域対策事務所を設置。現在も引き続き出先機関として業務を継続している。群馬県は、水没住民とどう向き合ってきたのか。同事務所に取材した。

継続的な中止撤回活動を展開

 ――2009年、当時の国交相がダム建設中止を表明した際、どういう思いだったのか。

 事務所 09年9月に、八ッ場ダム本体工事の契約手続き段階にあった八ッ場ダムは、当時の国土交通大臣により、一方的に「建設中止」が表明された。

 その後、再検証を行うなど、東京都知事や埼玉県知事の声かけのもと、関係する1都5県知事は速やかに連携した。また、都県知事による「現地調査」や「地元住民との意見交換会」、さらに「国土交通大臣との意見交換会」を行うなど、継続して中止撤回活動を行ってきた。

 1都5県知事が、全員そろって課題解決に取り組んだ例はほとんどないと思われるが、地元を抱える群馬県にとっては大変心強く、関係議員を含め一致団結した中止撤回活動が、ダム事業継続へ大きく貢献したものと感謝している。

 官房長官裁定などいくつかの条件もあり、結果としてダム本体の工事発注(14年)が5年遅れることとなった。反対から賛成へと苦渋の選択によってダムを受け入れた地元の皆さんにとって、5年もの間、先行きの見えない不安のなかで翻弄されたに過ぎず、自らの生活設計を大きく見直さざるを得ない状況となってしまったことについて、県としても申し訳ない気持ちでいっぱいである。

いかに観光客を呼び込めるかが課題

 ――八ッ場ダム関連の県事業にはどのようなものがあるのか。

 事務所 生活再建事業は、ダム補償事業、水特事業(水源地域対策特別措置法に基づく事業)、基金事業(利根川荒川水源地域対策基金に基づく事業)により実施してきた。水特事業のうちの県事業は、国県道7路線、砂防6渓流、治山1カ所。国と県の基本協定などにより、国が行う代替地造成と一体的に施工すべき事業は、国で施工するなど連携して実施してきた。

 また、町道や林道および下水道事業、スポーツレクリエ-ション施設事業など多種にわたる町事業は、町の行政負担増の軽減を図るため、県が受託し施工するとともに、土地改良に対する技術的支援を行ってきた。さらに、基金事業においても、各地区の地域振興施設の整備に対する支援を行ってきた。

 ――ダム関連観光振興はどうなっているのか。

 事務所 一般的に、ダムの建設地は、山間部の行き止まり地であることが多いが、八ッ場ダムは背後地に観光地として有名な「草津温泉」や「万座温泉」「北軽井沢」を抱えていることもあり、ダム周辺地域には多くの観光客が訪れている。

 ダム完成により、生活再建を本格的にスタートさせている地元住民が、直接、施設の運営に携わるなど、観光誘客による地域の振興は生活再建そのものである。このため、ダム周辺地域を訪れる多くの観光客をいかに呼び込めるかが課題である。

 また地元では、八ッ場ダムの治水や利水の面で新たに結ばれた下流都県の皆さんとの「上下流交流」を望む声もあり、八ッ場ダムを活用した「学びの場」を提供するべく、「水源地域ビジョン」に位置づけ、地元、国、観光関係団体などとともに県も参加し、上下流交流事業を推進していく予定である。

 県としては、まずはより多くの方に八ッ場地域のことを知ってもらい、年間を通して訪れていただくため、県の動画・放送スタジオ「tsulunos」を活用して、PR動画「グンマ×ヤンバー」を制作・配信し、八ッ場地域の魅力を伝える取り組みを独自に開始したところである。引き続き、観光PRのための情報発信に努めていきたい。

八ツ場ダム(写真提供:国土交通省)

(了)

【大石 恭正】

(前)

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