2024年04月25日( 木 )

国交省が学生と意見交換会、コロナ禍で異変?東京一極集中

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 国土交通省は3月11日、国土の長期展望に係る意見交換会「学生と東京一極集中の是正について考える」をウェブ上で開催した。高度経済成長期以降の日本では、人口の東京一極集中がたびたび問題視されてきたが、現在、震災リスクや感染症リスクなどの顕在化や、そしてテレワークの普及による働き方の変化とともに、若年層の東京移住に対しての意識に変化が現れ始めている。

世界的にも珍しい、首都への一極集中

 日本のように首都圏への人口集中度が高く、現在まで上昇が継続している国は、東アジアでも韓国(ソウル市)のみと異例な状況だ。総務省統計局によれば(2021年2月1日現在の概算値)、日本の総人口は1億2,562万人と、ピーク時(08年)の1億2,808万人から年々減少し続けている。

 反して、東京都を中心とした首都圏の人口は若年層を中心に年々増加傾向にあり、1,395万2,915人(同日、推定値)と全国人口の約11%を占めている。東京への転入超過のピークは、高度経済成長期の1962年で約39万人。バブル崩壊後は一時的に転出超過となったものの、2000年代には再び転入超過へ逆転した。総務省統計局が19年4月に公表した19年の「年齢各歳別都道府県間移動者数」によれば、移動者数が最も多い年齢は22歳で、次いで24歳、23歳が続き、22~24歳合計の移動者数は42万6,332人。転入する年齢は22歳~24歳が突出して高く、就職などが主な要因とされている。

 東京に人口が集中する主な理由には、上場企業を中心とした本社機能の集中が挙げられる。東京圏()における資本金10億円以上の企業数の地域別シェアは、16年には59.3%にまで上昇。企業数についても、東京圏では91年~16年にかけて1,000社近く増加しているほか、上場企業の本社所在地では、東京都が1,823社と全国の半分強のシェアを占めている。要因としては、「取引先が多いため」が最も高く、61%だった(14年調査時)。

 首都圏外への流出が期待される理由に、テレワークの推進が挙げられる。たしかにコロナ禍の影響で、上場企業のテレワーク実施率は19年以前の23%から20年8月の81%まで急速に上昇した。しかし、本社事業所に所在する部門・部署の配置見直し(全面的な移転、一部移転、縮小)を具体的に検討している企業は26%であり、20年に検討を開始しているのは全体の14%にとどまる。20年以降は本社事業所の縮小を検討する割合が大きく増加しているものの、地方への本社移動に直結しているわけではないのだ。

 本社移転を具体的に検討している企業へのアンケートでは、検討している移転先の73%が東京23区内となっており、移転を検討する理由としては、就労環境の改善や賃料削減・不動産売却などが挙げられた。

※ 東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県 ^

一極集中のリスク、地震への意識調査

 国交省は一極集中について、地方経済の衰退だけでなく、首都直下型地震によるリスクにも警鐘を鳴らす。首都直下型地震の被害想定では、火災発生による建物被害および死者数が多いのが特徴。なお、南海トラフ巨大地震の被害想定では、津波による死者数が多い。南海トラフ巨大地震は広域にわたるため、首都直下型地震と比べて資産等の被害が大きくなるが、生産・サービス低下に起因する経済活動への影響は、首都直下型地震の被害額が南海トラフ巨大地震を上回ると想定されている。

 では、首都圏への移住者は、地震のリスクをどのように考えているのだろうか。国交省国土政策局が行ったアンケートでは、首都圏外からの移住者は、地震災害リスクについて「十分・ある程度考慮していた」割合が36%、「ほとんど・まったく考慮していなかった」が54%、「その他」が10%という結果(「企業等の東京一極集中に係る基本調査(市民向け国際アンケート)」20年11月速報)となった。一方、東京圏からの圏外への転出者は、居住地選択において地震災害リスクを考慮している割合が高いという結果も出ている。

岐路に差しかかる、本社機能の一極集中

 こうした状況を踏まえ、国交省は大学生とオンラインで意見交換会を行った。意見交換会には、東京大学工学部都市工学科、東洋大学国際観光学部国際観光学科、長崎大学環境科学部環境科学科の3年生らが出席。学生からは、進学や就職といったライフイベントによる東京への移住に対しての大きな流れは依然として変わらないとしつつも、定住への考え方は変わりつつあること、東京への流入に対する考え方の変化、東京出身者の地方移住の意識が高まりつつあることなどが発表された。就職先の本社は東京にあるが、テレワークの完全普及、もしくは出勤回数の大幅な減少によって働き方が変わることなどを見込んでいるという。

 昨今の新型コロナ感染症拡大の状況を踏まえた同省の調査によると、首都圏在住の20~30代では地方移住への関心が高まっており、20代を地域別に見ると、とくに東京都23区居住者で地方移住への関心が高まっていることがわかる。

 「マイナビ2021年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査」によれば、テレワークやリモートワークが推進され、働く場所が自由になった場合、東京以外に居住を希望するという回答が大半を占めているという。本社機能が東京にあったとしても、テレワークの推進によって企業間取引にも変化が現れてくれば、必ずしも東京に住む必要はないというわけだ。

【麓 由哉】

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