2024年04月27日( 土 )

【4/7投開票】ソウル市長選の行方

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

ソウル市と釜山市の補欠選挙

 ソウルは韓国の首都で、人口1,000万人が住んでいる韓国最大の都市だ。ソウル市の市長を選ぶ今回の補欠選挙は次期大統領選の前哨戦とも言われ、与野党にとって、とても大きな意味をもつ選挙でもある。実際に、李明博元大統領はソウル市長を務めた後、韓国の大統領になっている。ソウル市長選挙はいよいよ4月7日に迫り、その選挙の動向に国民の関心が非常に高まっている。

 韓国政府は、新型コロナウイルスの封じ込めにおいては国民から一定の評価を得ている。しかし、ワクチン接種では先進国と比べて出遅れた感は否めない。加えて、韓国で「不動産開発」を担う公営企業、韓国土地住宅公社職員による不正な土地投機疑惑が発覚して、国民の怒りが爆発しかねない状況である。与党は不動産投資疑惑の解明に向けて積極的に望んでいるが、コロナ禍による不満や格差拡大による政府への不満が溜まっていて、今回の選挙は与党には不利に働くのではないかと専門家はみている。

 今回はソウル市長選挙だけでなく、釜山市長の補欠選挙も同時に行われることになっているが、その原因を提供したのは、現在の与党だ。ソウル市と釜山市の前市長が、セクハラ行為や自殺により任期途中で市長職を降りたために行われる補欠選挙である。

与野党のそれぞれの候補

 与党は女性で知名度が高く、文政権で中小ベンチャー企業部の長官を務めた朴映宣(バク・ヨンソン)氏を擁立。文在寅大統領の腹心の1人として与党のなかで活躍してきた彼女は、国会議員を3期務めている。

 朴映宣候補はもともとMBCのアナウンサーであったが、政界入りし、国会議員や長官などを勤めた後、ソウル市長選に臨んでいる。アナウンサーであっただけに、話が上手で、論法が鋭いことでも有名である。しかし、今回は自身の資産のことが暴露され、政治的には大きな痛手を被っている。加えて、テレビ討論会において政治的なビジョンよりも相手を非難することに終始したため、人気を落とす結果となった。

 一方、保守系最大野党の「国民の力」は4日、ソウル市長選の候補に呉世勲(オ・セフン)氏を擁立した。呉氏は貧しい家庭に生まれ、自力で成功してきた人物であり、弁護士として活動した後、2000年にソウル市江南区で国会議員に当選して政治家になった。その後、06年にソウル市長に当選し、10年には再選に成功。政治家としての基盤を確実に固めてきた人物で、市長としての実績も多い。しかし、10年から争点であった「学校給食無償化をめぐる住民投票での敗北」でソウル市長を辞任する。そのため、呉氏は当選すれば元職に戻ることになる。

 今回の補欠選挙の任期は1年のため、市長の経験者に有利となる側面もある。選挙を4月7日に控えた現在、世論調査の結果では、野党の呉候補が20%以上、リードしている。選挙運動の初期には与党の朴候補がリードしていたが、ともに立候補した安哲秀(アン・チョルス)が野党の候補を一本化するために途中で降り、呉氏が野党統一候補に決まると、世論は次第に呉候補に傾いた。不正土地投機問題に対する国民の不満やソウル市長時代の実績に対する再評価が呉候補に有利に作用したようだ。選挙戦の中盤の世論調査では、40代有権者の間では朴候補が優勢だったが、最近では呉候補が朴候補をリードしており、その差は2倍以上に広がった。

補欠選挙になった背景

 ソウル市長選は、セクハラ疑惑が発覚した与党系の前市長が自殺したことによって行われる補欠選挙だ。自殺した朴元淳(パク・ウォンスン)前市長は、11年の補欠選挙でソウル市長に就任して以来、連続3回の当選をはたした大物政治家である。弁護士であり、市民運動家出身の朴前市長は学生運動をしてきた人物で、弱者を代弁する活動で名声を築いており、女性被害者のための弁護にも積極的だった。

 1998年の「ソウル大教授のセクハラ事件」では被害者女性の弁護を担当し、「セクハラは犯罪」であることを韓国社会に初めて知らしめるなど、女性の人権を向上させる役割をはたしたとして、その功績は高く評価されている。ところが、皮肉なことに、朴前市長は長期間におよぶ女性部下に対するストーカー行為と性的虐待が明るみに出たため、自殺を選んだ。しかし、朴前市長はそのような人物ではなく、嵌められて無念の死を遂げたと朴前市長を擁護する側として訴えている人もおり、今も真相は解明されていない。

今回の選挙の行方

 コロナ禍で景気は停滞し、ほとんどの人は将来に対する不安に脅かされている。そのような状況下で、貨幣の大量増刷によるインフレ圧力は不動産価格の上昇をもたらし、所得格差の拡大は国民の不満を増長する。

 そのような中、今回の不正土地投機問題は国民の怒りを爆発させている。韓国政府は不動産価格を抑えるために数々の不動産政策を打ち出しているが、そのような政府をあざあらうかのように不動産価格は高騰し、歴代政権のなかで不動産価格がもっとも大幅に上昇した政権となった。その不満が今回の選挙に反映されるに違いない。

 与党は今回の不正土地投機問題は今までそのようなことがまかり通っていた明確な証拠であるため、今回こそ断じて断ち切ると言っているが、その言葉を額面通り受け取る国民は少ないのが実情である。

 選挙は蓋を開けてみないとわからないが、現在の野党がリードしている状況は覆しがたいようだ。今回の補欠選挙で与党が敗北すれば、任期終盤にさしかかる文政権のレームダック(死に体)化が早まりかねない。

 ソウル市だけでなく、釜山市でも野党候補が圧勝のようだ。釜山はかねてから保守の優勢が伝えられているところだ。巻き返しを図りたい与党側は釜山沖の加徳島に新空港を建設する構想を掲げるようだ。今回の補欠選挙の結果次第では、政局が大きく動く可能性がある。

 与党を裁く補欠選挙になるのか、それとも与党の支持を維持する選挙になるのか、国民の関心はかつてないほど今回の選挙に向けられている。もし野党が今回の選挙で勝利を収めたら、次期大統領選挙に向けて、希望が湧いてくるだろう。

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