わらび座ミュージカル「北斎マンガ」特設ページ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年04月20日 15:55

福島原発事故、アルプス処理水を海洋放出して良いのか~報道では語られない諸問題と私の提案(3)

福島自然環境研究室 千葉 茂樹

トリチウム

 水は「水素原子2個と酸素原子1個が結合した分子」であり、そのうちの水素原子は「原子核に陽子が1個あり、その周りを電子1個が回っている」ことは、よく知られていることだろう(図はこちら。水素

 通常の水素原子は「原子核に陽子が1個だけ」であるが、この原子核に中性子が1個加わると「重水素、デューテリウム」になり、中性子が2個加わると「三重水素、トリチウム」になる。

 トリチウムは放射性物質で、半減期(その半数が分解するのに要する時間)は12.32年で、ベータ線(電子、放射線の一種)を出しながらヘリウムへと変化する(ベータ崩壊)。このときに出るベータ線が、人体などに悪影響を与える。

 トリチウムは、大気上層中で宇宙線中の中性子と窒素原子核との衝突でできるものであるが、第2次世界大戦以降、大気中の核実験によりトリチウムの量が急増し、従来の約200倍に達した(詳しくはこちら)。また、トリチウムは、通常の水と一緒に「トリチウム水」として人体に取り込まれるため、体重60 kgの人では体内に50ベクレル(放射能)程度のトリチウムがある(詳しくはこちら)。

トリチウム「水」

 このトリチウムが、水分子H2Oの「通常の水素原子H」と置き換わったものが「トリチウム水」だ。性質は、通常の水と変わらないが、中性子2個分重いことと、ベータ線を出す点は通常の水と異なる。そのため、通常の水とトリチウム水は同じような性質で、加えて交じり合っているため、汚染水からトリチウム水だけを取り除くのは難しい。

 「2015年、キュリオン社がトリチウムの分離技術を開発した」との記事について、グリーンピースの『東電福島第一原発 汚染水の危機2020』では、政府および東電は「コストがかかることからキュリオン社のトリチウム分離技術を採用しなかった」と指摘している。

トリチウム水の生体内の挙動

福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏
福島自然環境研究室 千葉 茂樹 氏

 トリチウム水は、生物の体内に入ると、通常の水のように動く。これについては、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構による説明を、以下にまとめる。

 飲料水や食物から摂取されたトリチウム水は、消化管からほぼ完全に吸収され、また呼吸によって肺からも取り込まれる。体内に取り込まれたトリチウムは、24時間以内に体液中にほぼ均等に分布する。問題は、「有機結合型のトリチウム」だ。

 生物体は、骨以外はタンパク質・糖・脂肪など(有機化合物、簡単にいうと炭素・水素・窒素などの化合物)からできていて、これら有機化合物にトリチウムが入り込んだ物質を「有機結合型トリチウム」という。これは有機化合物のため、水のようには排泄されず、体内に長くとどまる傾向がある。

 生物学的半減期(摂取量の半分が生体内から排出されるのにかかる日数)は、経口摂取した「トリチウム水」の場合が約10日であるのに対し、有機結合型トリチウムの場合が約30日〜45日とされる。この間、トリチウムから出る放射線のβ(ベータ)線によって「内部被曝」する。さらに、長期間にわたって低濃度のトリチウムを取り続けた場合、長期間、内部被曝する。

 あくまで極端な例ではあるが、トリチウム夜光塗料を仕事で使っていた1960年代のヨーロッパの職人の例を挙げる。この職人は、トリチウム入りの塗料を筆につけ、筆先を舐めて時計の文字盤に塗っていたが、この舐める行為により、トリチウムを体内に取り込み続けた。尿中のトリチウム量から被曝線量は3〜6シーベルトと推定される。症状としては、全身倦怠、悪心、その後の白血球減少、血小板減少が起こり、汎血球減少症が原因で死亡した。

(つづく)


<プロフィール>
千葉 茂樹
(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。

データ・マックスの記事
 「徒歩の調査」から見た福島第一原発事故 被曝地からの報告
 福島第一原発事故による放射性物質汚染の実態~2019年、福島県二本松市の汚染の現状と黒い土
 福島第一原発事故から10年~今も続く放射性物質の汚染
 【東日本大震災から10年(2)】福島第一原発事故から10年、放射性物質汚染の現状 公的除染終了後の問題

著者の論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
 原発事故関係の論文
 磐梯山関係の論文

この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2021年05月09日 07:00

知的に自立した若者を育てよ〜教育現場からの報告と提言(4)

 近年拡大の一途をたどる「指定校推薦」制度は、若者らのそうした傾向を助長するのみならず、学生らのうちに要らぬ分断さえ生み出している。大学が特定の高校と協定を結び、その...

2021年05月09日 07:00

【コロナで明暗企業(6)】日本製鉄と日立製作所~企業城下町の栄枯盛衰(中)

 日本製鉄は茨城県鹿嶋市の東日本製鉄所鹿島地区にある高炉1基の休止を決めた。鹿島地区は旧住友金属工業の基幹拠点である。住友金属工業が製鉄所を開いた1960年代以降、鹿...

2021年05月08日 07:00

知的に自立した若者を育てよ〜教育現場からの報告と提言(3)

 このような調子でこれまでどうやって入試や定期試験をクリアしてきたのか、と学生に率直な質問をぶつけてみたことがある。そのとき、ある学生の一群(私立大)は、それは誇らし...

2021年05月08日 07:00

被災地復興や新型コロナ禍への対応 高まる業界団体としての存在感(後)

 『具体的な要望としては、軽油引取税についてですね。軽油は一般的にディーゼルエンジンなどに利用されて軽油引取税がかかりますが、最終処分場で使う重機については減免されて...

2021年05月07日 18:56

【成り行き注目】(株)九設(大分)/電気設備工事ほか

 同社は、5月6日付の決済が不調に終わったことが判明した。

2021年05月07日 17:59

芝浦グループ 建築中の新本社ビルを公開

 芝浦グループホールディングス(株)は、45周年となる2022年に向けて、福岡市中央区に新本社ビルを建設している。これまで同グループが施工してきた物件のなかでも最大級...

2021年05月07日 17:52

掲載予告~山口FGの吉村猛社長に対する「内部告発状」が当社に届く

 当社児玉社長と浜崎裕治顧問宛てに、山口銀行の元行員から4月30日付で山口FGの吉村猛社長に対する「内部告発状」が送付されてきた。詳細については来週月曜日から掲載する...

2021年05月07日 17:45

【5/30まで】国際政治経済学者・浜田和幸氏の「創作漢字書展」が開催中

 メルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏の「創作漢字書展」が東京・銀座...

2021年05月07日 17:38

イーロン・マスク氏が先導役を務めるBMIビジネスの最先端事情

 世界を騒がすことに関しては天才的な能力を発揮するのがイーロン・マスク氏である。確かに、電気自動車の「テスラ」から宇宙ロケットの「スペースX」の開発などを通じて世間を...

2021年05月07日 17:24

被災地復興や新型コロナ禍への対応 高まる業界団体としての存在感(前)

 産業廃棄物を適正処理することは生活環境の保全と国民経済の発展を図るために不可欠なうえ、近年は大規模災害の多発などで被災地における災害系廃棄物の処理も大きな社会問題と...

pagetop