ツェルマットに学ぶ観光の在り方、シビックプライドと持続可能社会(前)
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日本におけるこれまでのインバウンド事業の多くは、地域のまちづくりに直結しているわけではなかった。外国人観光客による「買物」や「宿泊」に起因するものであり、雇用を生み出すにとどまることが多い。外国には観光事業をあくまで手段とし、持続可能な社会づくりとして成功している地があり、その根幹にはシビックプライド(都市に対する市民の誇り)があることが見えてきた。
スイスのツェルマット
世界には観光と地域のまちづくりが融合し、持続的可能な社会として形成している地区がいくつかある。スイスのツェルマットもその1つだ。
ツェルマットは、スイスの最高峰であるモンテローザを含むペンニネアルプス山脈の山々に囲まれた、世界屈指の山岳リゾート都市の1つ。ツェルマットの人口は5,407人(2020年11月1日現在)、面積は242.9km2。以前は、農地も少なく貧しい村だったが、1865年にエドワード・ウィンパー(英)によるマッターホルン初登頂が達成されたことをきっかけに、ツェルマットの観光開発が始まった。ツェルマットには雄大なアルプスの山々や氷河、登山鉄道、本格的なスキー、トレッキングコースなど自然をメインとした観光資源があり、非日常を求める観光客で賑わっている。チューリッヒ空港やジュネーブ空港からの距離は約250km、車で約3時間前後の距離に位置しているが、これだけ地理的に不利な条件にもかかわらず、ツェルマットを訪れる観光客の満足度は非常に高く、7割以上がリピーターとされている。
たしかに山や氷河、スキー場などは、そのほかの地に比べて優れている観光資源を有している。しかし、リピート客を惹きつけ、持続可能な社会を形成している要因はどこにあるのだろうか。この地に定住し、スキー教師、観光ガイドも担う観光カリスマ・山田桂一郎氏は、「一過性の非日常的なレジャーを売り物にするだけでは、観光産業は地域を支える柱にはなり得ない」としている。
山田氏によれば、スイス人には外部からの補助に頼らない、地域内の経済を自立させる国民性があるため、それが一過性ではなく、継続的に利益を生み続ける仕組みをつくる土台となっているという。ツェルマットでも、単に観光資源を売るのではなく、地域が自主的に行う仕組みづくりが、観光地としての魅力を高めているようだ。
(つづく)
【麓 由哉】
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