2022年06月27日( 月 )
by データ・マックス

ツェルマットに学ぶ観光の在り方、シビックプライドと持続可能社会(後)

 日本におけるこれまでのインバウンド事業の多くは、地域のまちづくりに直結しているわけではなかった。外国人観光客による「買物」や「宿泊」に起因するものであり、雇用を生み出すにとどまることが多い。外国には観光事業をあくまで手段とし、持続可能な社会づくりとして成功している地があり、その根幹にはシビックプライド(都市に対する市民の誇り)があることが見えてきた。

地域と観光の共生

ツェルマット市街
ツェルマット市街

 ツェルマットでは、自然保護の観点からガソリン自動車の進入が規制され、移動手段は緊急車両を除けば電気自動車と馬車のみ。メインストリートには高級時計やスイス産の有名ブランドショップ、スポーツショップが並び、裏道に入れば地元色を色濃く残した古民家が立ち並ぶ。また、飲食店は地元産の食材を使った郷土料理を提供している。ほとんどが、国内ないし域内で生産されたもので構成されているのだ。いわば街の文化、ライフスタイルを売ることで、ツェルマットは観光地として成立し、地産地消ではなく地消地産のシステムとなっている。

 ツェルマットでは単に観光資源を利用し、大型リゾート施設を開発したりはしない。宿泊・飲食産業だけでなく、多少コストが高くとも地元の不動産や製造業などを利活用することで地域全体の利益に還元させている。

 山田氏は、「この地で子どもたちから憧れ、尊敬されている職業の1つはガイド」としている。この町には大学がないため、多くの子どもたちは一度外に出るが、就職のために帰ってくるとのことだ。単純に地元愛が強いということではなく、地元に誇るべき仕事があり、住み続けたい生活環境が整っていることが大きな要因となっている。「町を走る電気自動車は、その他の観光地との差別化のために生み出されたマーケティング上のアイデアではなく、自然と共生した伝統的な生活を守り、次世代にもっと環境を良くして伝えたいという住民の真剣な思いが理由」だと山田氏は著書で述べている(「観光立国の正体」(株)新潮社、16年発行)。

 このように、「地域住民が自分たちの住むまちに誇りや愛着を抱く」ことは、シビックプライドといわれている。(株)やまとごころ代表・村山慶輔氏は、ウィズコロナの時代においてシビックプライドは観光に欠かせないものであり、自然発生的に芽生えるだけでなく意図的に育むための取り組み(地域教育)も必要であると訴えている。

 日本において多くの観光事業者は、旅行者に非日常を提供するだけにとどまっているきらいがある。それは西欧諸国に比べ長期間の休日が少なく、観光できる内容に限りがあることも要因かもしれない。しかし、「それでは顧客満足度は一定のものにしか到達せず、それぞれの観光資源頼みとなりリピート率の向上にはつながらない」(山田氏)。

 アフターコロナにおいて、19年までの「インバウンドバブル」を超えるものにするためには、改めて日本の地方の仕組みや観光地としての在り方を再考し直す必要がある。

(了)

【麓 由哉】

(前)

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