「地域主体へ」コロナ禍の危機感がインバウンドの質的転換となるか(4)
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【宮城県気仙沼市の例】(つづき)
ターゲット戦略としては、近郊地である仙台から始まり、より遠方地であるインバウンド事業へ拡大することを目標に定めおり、商圏分析なども行っている。結果として、気仙沼市の観光事業はコロナ禍にもかかわらず、マイクロツーリズムの実践により大きな影響はなかったようだ。
気仙沼市は、生カツオやふかひれ、牡蠣など新鮮な海産物が特産として知られており、近郊からの来訪者は「食」を目的にしていることが多かった。一方で、遠方からの来訪者は「被災地への現状を見る」が最も多かったが、20年秋には同じく「食」が1位となった。これは、近郊だけでなく広域で、気仙沼市が「食の街」として認識されたということだろう。このように同市では、一時的な需要増加だけでなく、産業として確立し持続可能な社会となるための取り組みを行っている。地域の観光事業とは行政や商工会議所だけが主体となって行うものではなく、地域全体がビジネスとして運営をしなければならないものとなっている。
「被災地としての気仙沼市は、いずれ忘れられてしまうものです。復興支援に甘えるだけでは、もしもの際に街を残せなくなってしまう。自らの力で立ち上がり、復興という目的で地域が団結できたことが大きいと思っています」(気仙沼地域戦略 理事・事務局長 小松志大氏)。
危機感が地方創生を促進
観光庁は4月6日、「2030年までに訪日外国人旅行者数6,000万人および訪日外国人旅行消費額15兆円」の目標達成に向け、「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」を設置した。これまで、訪日外国人旅行者数へ注目が集まっていたが、地方創生の目標達成には、「量」ではなくその「質」が問われている。量だけに囚われた観光誘致は地域経済活性につながりにくく、オーバーツーリズムなどの社会的問題などを起こす恐れもあるからだ。インバウンドを含めた観光事業は、その地域が主体となり、質を高めなければならない。
日本では、各地方を含め危機感が薄かった。結果として時代の流れに弱く、持続可能な社会の形成に至りづらかった。スイスのツェルマットでは地域の生き残りをかけた危機感、北海道弟子屈町では人口減少と経済衰退による危機感、岩手県気仙沼市では震災復興からの危機感が地元の意識を向上させ、基幹産業として押し上げた。それらの危機感は地域住民主導のまちづくりに向かい、地元の特性や強みを認識させ、シビックプライドにもつながっている。
コロナ禍において、インバウンドを中心とした観光事業は、まさしく八方ふさがりの状態となっている。コロナ禍の終息が見えないことへの不安は、生き残りをかけた危機感を抱かせるには十分な状況だろう。その一方で、来日ニーズはすでに高まっている。アフターコロナで一時的な特需に終わるのか、地域全体が立ち上がり、基幹産業としての地域まちづくりを後世に残すのか、コロナ禍の“今”が分かれ道なのだ。
(了)
【麓 由哉】
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