「地域主体へ」コロナ禍の危機感がインバウンドの質的転換となるか(3)
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北海道弟子屈町の例
スイスのツェルマットのように、地域全体が観光事業に乗り出し、持続可能な社会の形成に向かっている地域は、実は日本の各地にある。
硫黄山や摩周湖などの美しい自然や温泉地に恵まれた北海道弟子屈(てしかが)町は、高度経済成長期に大ヒットした歌謡曲のモデル地として、一躍観光スポットとして人気を博した。しかし、時代の流れとともに衰退し、人口・町内消費額などはみるみる減少していた。
そこで、地域の連携を図り復興に向けた新たなプラットフォームとして「てしかがえこまち推進協議会」を発足。同協議会は、大人も子どもも問わず、町民であれば誰でも参加可能で、住民参加型ではなく行政参加型であることが特徴として挙げられる。
行政参加型とは、あくまでも住民が主体となった仕組み対して行政がサポートする仕組みを指す。同協議会にはこれまで観光事業とは直接関連がなかった企業、団体などが参加し、自ら企画立案のもと実践し成果を出している。
宮城県気仙沼市の例
地域経済衰退に対抗すべく観光事業を中心に自ら立ち上がり、とくに注目されているのが宮城県気仙沼市だ。
東日本大震災で被災した気仙沼市は2011年9月、気仙沼市震災復興計画の重点事業を掲げた。同市はこれまで水産業を中心とした経済活動を行っていたが、被災したことで今後の在り方を地域一体で話し合い、結果として第2の基幹産業として観光事業を据えた。
これを受けて、12年3月に気仙沼市観光戦略会議を設置。同会議では、2つの戦略――(1)「気仙沼ならではのオンリーワンコンテンツを活用した誘客戦略」、(2)「水産業と観光産業の連携・融合による新たな付加価値創造戦略」を挙げた。
その後、17年3月に気仙沼観光推進機構を設立し、さらに同時期に行政、商工会議所、観光協会で (一社)気仙沼地域戦略を設立した。気仙沼地域戦略は主にインバウンド事業を含めたマーケティング組織として活動している。同社が行っているマーケティングは非常に高いレベルで実施しているとして、各自治体や団体から視察などが行われており、気仙沼市の観光産業の急伸を支えている。
同法人は18年に、観光庁観光地域まちづくり法人(DMO法人)にも登録されている。DMO法人とは、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人のこと。理事は商工会議所、民間企業、事務局スタッフはU・Iターン者らで構成されている。同法人が行っている事業は、観光意識醸成・ガイド育成、観光データベース構築、プロモーション、事業者育成・経営支援などを含む9つ。ここで最も注目されているのが、無料会員制「気仙沼クルーカード」(以下、クルーカード)を利用したマーケティング戦略だ。
クルーカード会員は、飲食店や物産店、宿泊施設などクルーシップ加盟店での買物でポイントを貯蔵・利用することができるほか、メルマガやアプリを通じて不定期に行われる会員限定プランの利用などが可能となる。同法人は会員に対し、気仙沼への旅行目的、満足度、希望などのアンケートを行い、サービス向上を図っている。また、クルーカードは旅行者だけでなく市民も利用することができるため、地域の消費動向を把握する役割ももっている。
(つづく)
【麓 由哉】
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