【球磨川水害から1年】「流水型ダム」が球磨川治水の要(前)
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10年かかる緊急プロジェクト
球磨川の治水をめぐっては、今年1月に緊急治水対策プロジェクト、3月には流域治水プロジェクトが相次いで取りまとめられた。その中身を見ると、流水型ダム、河道掘削、引堤、遊水地、放水路、輪中堤などの河川対策、田んぼダムや雨水浸透施設の設置、森林保全、高台移転などの流域対策、ハザードマップやタイムラインなどのソフト対策といったさまざまな対策が、「これでもか」というほど詰め込まれている。
羅列されたこれら対策群を眺めていると、なかには「これってどれだけの効果があるの?」と考えてしまう取り組みもなくはない。ただ、どんなに微小であっても、やらないよりは効果があるだろうし、何より「何でもやっている感」が出るので、「流域治水らしくて良い」ということなのかもしれない。
緊急治水対策プロジェクトの期間は、2029年度までの10年間。事業費は、今のところ約1,540億円を見込んでいる。他の緊急治水対策プロジェクトの期間を見ると、長くても5年間程度なので、10年間は長い。言葉の解釈の問題だが、緊急といいながら10年かかるということには違和感がある。
ただ、プロジェクトの対象となるエリアが広いうえ、メニューも多く、復旧工事や自治体のまちづくりなども絡むことを考えると、10年間でも楽観はできないとも思える。その証拠に、流水型ダムや市房ダムの再開発のスケジュールについては、未定のままだ。スピード感を重視してのことなのだろう。
水害への備えは、まず「逃げる」
当面の工事としては、緊急治水対策プロジェクトの第一段階として位置づけた対策から、順次着手していく。今年6月時点では、ドローンを用いた現地での調査測量、設計検討が行われている。今後は、検討結果を基に、自治体や住民などに設計説明を行いながら、工事着手を目指していくことになる。この点、八代河川国道事務所の担当者は、「被災した自治体は今後、復興まちづくりを進めていくことになる。我々としても、自治体との連携を密にし、歩調を合わせながら事業を進めていくことが重要だと考えている」と話す。
気になるのは、この第一段階の対策が完了するまでの出水期を、どうしのぐかということだ。この点、当面はソフト対策で対応していく――つまり、「逃げる」ことでしのいでいくことになる。
八代河川国道事務所と熊本地方気象台では、「逃げる」判断の基準となる指定河川洪水予報には、発表基準のレベルの高いほうから「氾濫危険水位」「避難判断水位」「氾濫注意水位」「水防団待機水位」を設定しているが、球磨川流域では昨年の水害発災以降、今年の出水期も継続してレベルを1つ下げて、発表することにしている。テレビやラジオといった地元メディアとの連携、全流域でのタイムライン運用などを駆使し、「逃げる」体制の構築に取り組んでいるようだ。
(つづく)
【フリーランスライター・大石 恭正】
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