2024年04月27日( 土 )

リッツ・カールトン開業でどう変わる?雑多さ魅力・若者のまち「福岡・大名」(前)

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大名を盛り立てた、3つの公的施設

 明治期に入ると、士農工商の身分制度の撤廃にともなう武士階級の失墜から、大名や天神といったかつての武家屋敷街は荒廃。一時はスラム化する事態になっていたという。その後、天神エリアには官公庁施設が集積して発展していく傍ら、大名エリアにも次第に都市開発の波が訪れていった。

 まず、1873(明治6)年には、旧・大名屋敷街の一角にあった河村邸跡に、現在は跡地再開発の真っ只中にある「大名小学校」が開校。同校は「学校番号1番」を与えられ、福岡で誕生した最初で最古の小学校だった。なお、開校時は現在地よりもっと西側の赤坂近辺にあったようだが、94(明治27)年に現在の場所に移転。1929(昭和4)年にはRC造の本校舎が完成している。この本校舎は福岡大空襲による焼失も奇跡的にまぬがれ、2014年の大名小学校の閉校後も保存・活用されることが決定。現在は、官民共働型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」となり、大名の街中で依然として存在感を放っている。なお余談だが、大名小学校の正門西側のレンガ塀の土台には、もともとこの場所にあった前出の肥前堀の石垣が転用されている。

現在はスタートアップ支援施設として活用される旧大名小学校本校舎
現在はスタートアップ支援施設として活用される旧大名小学校本校舎

 88(明治21)年には山口邸跡に「地方裁判所」が、その南側には「区裁判所」が建てられた。当時の庁舎は木造ヒノキ造り2階建てで、建築面積約2,900m2、屋根の高さは約20m。屋根上には菊の御紋章の鬼瓦が掲げられた。庁舎横には書庫として白壁土蔵が建ち並び、司法の殿堂として威風堂々とした姿で屹立していたという。その後、裁判所の近くに被告人を収監する拘置監「福岡監獄土手町出張所」(1914年完成)ができると、収監されている未決囚(被告人・被疑者)に縁者などが食べ物を差し入れるための差入弁当屋が軒を連ねるほか、裁判所に関連する弁護士・司法書士の事務所、代書屋なども集積し、周辺一帯は独特の景観を見せていたとされる。なお現在、地方裁判所跡は福岡市中央区役所に、区裁判所跡は「ゆうちょ銀行福岡貯金事務センター」になっている。

地方裁判所跡地は現在、福岡市中央区役所になっている
地方裁判所跡地は現在、福岡市中央区役所になっている

 92(明治25)年には、裁判所と大名小学校に挟まれた場所に、鉱業に関する警察事務を行う機関として「福岡鉱山監督署」が設置された。すると、筑豊の炭鉱主らが大名や天神エリアに、邸宅や別邸を構えていったとされる。たとえば、現在の「福岡PARCO」がある一帯には、豊国炭鉱(福岡県糸田町)などを経営し、旧福岡藩士が中心となって結成された政治団体「玄洋社」の初代社長となった平岡浩太郎氏が邸宅を構えていたという。また、明治通りを挟んで平岡邸の向かいには「筑豊の炭鉱王」と呼ばれた伊藤伝右衛門氏の別邸「銅(あかがね)御殿」があったほか、現在は西鉄グランドホテルが建っている場所には、「筑豊御三家」の1つである安川財閥の創始者・安川敬一郎氏の次男・松本健次郎氏の別邸があったという。

松本健次郎邸跡に建つ西鉄グランドホテル
松本健次郎邸跡に建つ西鉄グランドホテル

 1908(明治41)年発行の「最新実測 福岡市街全図」によると、西から順に裁判所、鉱山監督署、大名小学校の3つの施設が並んで描かれている。なお、このころまではまだ、これらの施設のすぐ南に紺屋町堀(中堀)および、その東に接続する肥前堀があったようだが、1910(明治43)年に開催された「第13回九州沖縄八県連合共進会」の会場としてまず肥前堀が埋め立てられた。その後、1923(大正12)年の「福岡博多及郊外地図」までは紺屋町堀の姿が確認できるが、25(大正14)年改訂の同地図ではすでに姿はなく、紺屋町堀もこのころに埋め立てられてしまったようだ。

【坂田 憲治】

(中)

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