2022年08月10日( 水 )
by データ・マックス

商都・福岡には名建築が少ない?「かっこいいビル」を考察(前)

第三次産業の街

 市内を流れる一級河川がなく、工業団地用地もなかった福岡市は、早くから「都市型産業」への特化を目指した結果、第三次産業が大きく成長した。一方、現代では第一次産業が第二次産業や第三次産業にまで踏み込む、「第六次産業」という思考も拡がってきた。つまり、農業に従事している人も農作物を生産するだけでなく、観光農園のように収穫を楽しんでもらう“体験”をサービスとして提供する。「モノを得ることに対する物質的満足」ではなく、「モノを通じてどのような精神的満足度が得られるか」が求められるサービス産業化の時代なのだ。

出典:公益財団法人福岡アジア都市研究所発行『FUKUOKA-Growth-2020』
出典:公益財団法人福岡アジア都市研究所発行『FUKUOKA-Growth-2020』

 日本全体がサービス産業化してきている今日において、福岡市の取り組みには先見の明があったといえるだろう。産業が高度化・情報化していくなか、ICTやコンテンツなどのこれからを担う産業が集積する福岡市は、もともとの強みである卸売・小売業やサービス業と組み合わされることで、第六次産業も含めた次世代産業へ進化していく可能性もあるからだ。

 こういった背景から、福岡市都心部には商業ビルが多い。ショッピングに代表される「モノ消費」に加えて、美容やエステなどの「コト消費」が多い点も特徴的で、九州一円から買い物客がやって来る。 2011年のJR博多シティの開業を契機に、天神・博多は双方向的に共存繫栄している。九州の経済・情報・文化の中枢機能を担う福岡市は今日、“買い物が楽しいまち”として鎮座することになった。

 一方で商都・福岡には、名建築といわれる建物が多くはない。商業開発を統制するデベロッパーの思想が直に反映される都市像モラルが、建築遺産としての価値を高めるまでには至っていないのではないだろうか。また、商業建築はときに「看板建築」とも揶揄され、キャッチコピーやグラフィックに代表される文字列に表層を奪われることも多い。商人を相手にする商業ビルゆえに、予算を付けにくいという事情もあるだろう。端切れを接ぎ合わせたような外装の雑居ビル、狭小地につま先立ちしているようなペンシルビル、欲望を召喚させたようなおどろおどろしい飲食ビルなど、商いを武装した商業思想が街全体の建築群を支配しているような側面をもつ。筆者が全国をバックパッカーで廻った建築学生時代、「福岡の中心街は建築作品を見られる場所が少ないな」と感じた記憶を今もわずかながら覚えている。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

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