建築と色温度
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照明器具には「色温度」というものがある。比較的薄暗く感じるが心理的に落ち着くいわゆる“火”の色に近い電球色系から、蛍光灯に代表される真っ白い蛍光灯色系。これらを色温度・ケルビン(K)の数値で分類し、だいたい2,700K(電球色)~3,500K(温白色)~5,000K(昼白色)の範囲のなかで用途に応じて選定していく。
住空間では、最近はLED電球でも温かみのある電球色系も一般化してきて、リビングやダイニングは落ち着きのある2,700K~3,000Kをよく使う。浴室や洗面室も白々しく光る蛍光灯色よりは電球色系を、しかし勉強を期待する子ども部屋や料理をするキッチン、一部デスクライトなどは依然、蛍光灯色が好まれる傾向がある。用途別にいえば、ラグジュアリーホテルやアパレル、飲食店など、商業店舗系では高演出の電球色が多用される。食卓の上の光もやはり白けた寒色系より、暖色系の色温度の方が料理をおいしく見えるのは誰もが経験する感じ方ではないだろうか。一方、昼白色が適切な用途としては、集中した快活な作業が必要なオフィスやレストランの厨房、病院や学校など、いわゆる執務室といわれるような実務空間に向いている。
さて、この色温度だが、夜の街を散歩しながらビル群を眺めていると、色のバラツキが目にとどまって面白い。ホテルや商業施設は概ね電球色系が、夜も深くなるころでもオフィス街では真っ白い蛍光灯色系が目立つ。最近の分譲マンションではラグジュアリー感が人気なので、備え付けのダウンライトやシャンデリアなど電球色系の光が、窓側を占有しているのであろうリビングから漏れ出している風景が多い。賃貸マンションは引っ掛けシーリングの設えで、好きな照明器具を自由に入替できるような「照明器具をお持ちください」体制になっており、住人の空間リテラシーが測られる。リノベーションなどをすれば間取りも変えていけるので、必ずしも表側であるガラス面がリビングルームだとも限らない。もしかすると、キッチンがバルコニー横へ移っている可能性もある。すると、その辺りに昼白色が沁み出しているかもしれない。ときに電球色系と蛍光灯色系の光がモザイク柄のように入り乱れていて、統一性のない照射環境のものも見られるが、それは築年数の古い分譲マンションで一部賃貸として貸し出されていたり、階層も多様な入居者の入れ替わりが激しいエリアなのだろうなどと想像する。
かつて高演色な照明器具は公共の場での活用が多く、一般家庭では電気代の安い蛍光灯が多く使われていた(裸電球は別として)。電球は100Wや60Wなどと使い分けるが、暗い割に電気代がかかる。今でこそ電球色タイプのLEDが低消費電力で「100W相当の明るさです!」といって謳っているので、イニシャルコストはかかるがランニングコストでは随分と経済的になった。
暖色系の色温度の下では、割とゆったりした穏やかな時間。寒色系の空間では、緊張感のあるパリッとした活動の時間。年配の人には依然として「蛍光灯じゃないと」という人も多いが、今では住空間にもようやく温かみの色信仰が浸透してきたといえる。夜の照度空間の選定は、そこに住む人間の哲学が滲み出る。さまざまな色温度の混在で計られる、感情のバロメーターが垣間見えるのも、夜光ビル群を眺める醍醐味の1つだ。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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