2024年04月29日( 月 )

西武HDの「コロナ敗戦」、所有と運営を分離(1)

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 西武ホールディングスは鉄道大手のなかで、新型コロナウイルスの影響を最も受けた私鉄の一つで、2020年、21年の2年間、コロナ禍で塗炭の苦しみを味わった。日本最大級のホテルチェーン、プリンスホテルの宿泊需要が“蒸発”してしまったからだ。同社は「コロナ敗戦」による事業の再構築を図るべく、プリンスホテルやレジャー施設を売却し、「所有」と「運営」を分離する。

後藤社長の座右の銘「疾風に勁草を知る」

プリンスホテル イメージ    (株)西武ホールディングス(HD)の後藤高志代表取締役社長は1月28日、日本BS放送(株)(東証一部)が運営するBS11オンデマンドに出演し、「西武グループ、逆境下での再建戦略」について語った。画面には、後藤氏が座右の銘としている「疾風に勁草を知る」という文字が映し出された。

 激しい風が吹いて、初めて丈夫な草が見分けられる。苦難にあって、初めて、その人の節操の堅さや意志の強さがわかる。中国の古典『後漢書』の言葉である。

 後藤氏は逆境が似合う人物だ。西武HDにコロナ禍がもたらした強烈な逆風が吹きつける。後藤氏が率いる西武HDは、「コロナ敗戦」からの再生策に、アセットライト(資産売却戦略)を掲げる。アセットライトとは、資産(アセット)の保有を抑えて、財務を軽く(ライト)することを目指す経営のことだ。

ホテルなど31施設の不動産を1,500億円で売却

 西武HDは2月10日、子会社の(株)プリンスホテルが保有するホテルやゴルフ場、スキー場など全76施設のうち31施設を売却することで、シンガポール政府系のファンドGICと基本合意したと発表した。売却額は約1,500億円、譲渡益は約800億円を見込む。売却後も、「プリンスホテル」などのブランドを冠したまま各施設の運営は続ける。

 譲渡するのは、ザ・プリンスタワー東京(東京・港区)、志賀高原プリンスホテル(長野県山ノ内町)、苗場プリンスホテル(新潟県湯沢町)などのホテルのほか、新潟県の苗場、岩手県雫石町、群馬県の万座温泉、長野県の志賀高原にあるスキー場など。

 一方、周辺の再開発が進む東京都心の品川・高輪エリアの品川プリンスホテルや、リゾート地の軽井沢プリンスホテルスキー場、箱根の中心部のザ・プリンス箱根芦ノ湖などは手元に残した。

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 西武HDは子会社のプリンスホテルが49ホテルを展開し、うち41ホテルを保有・運営している。資産効率を高めるため、22年4月をめどに運営と資産保有を分離する。運営は新会社(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド(東京・豊島区)が担い、プリンスホテルのブランドやサービス提供を続ける。

西武HDの実態は「ホテル・レジャー会社」

 西武HDは新型コロナの影響を最も受けた私鉄の1つだ。21年3月期の連結最終損益は723億円の赤字(前年同期は46億円の黒字)。私鉄15社のなかで最大の赤字を計上した。

 西武HDはレジャー施設やホテル運営の依存度が高い。プリンスホテルは国内最大級のホテルチェーンだ。コロナの影響のない19年3月期はホテル・レジャー事業が売上高の4割を占め、鉄道などの運輸事業よりも高かった。

 西武HDにとってコロナ禍による国内客や訪日外国人客の旅行や宿泊の需要消失が大きな痛手となった。21年3月期の連結営業損益は515億円の赤字を計上したが、ホテル・レジャー事業の営業赤字は534億円にのぼる。

 22年3月期も同様。連結営業損益は110億円の赤字見通しだが、ホテル・レジャー事業の営業赤字は255億円。ホテルやスキー場が西武HDの赤字の最大の要因となっている。ほかの大手私鉄が、22年3月期の業績予想で最終損益が黒字転換する見通しを示しているが、西武HDの22年3月期の最終損益は140億円の赤字予想としていたのは、ホテル・レジャー事業の赤字によるものだ。

 資産の売却で黒字転換を図るべく、1月27日、傘下の西武建設(株)(埼玉県所沢市)を電気通信工事3位の(株)ミライト・ホールディングス(HD、東証一部)に売却すると発表。ミライトHDが約620億円で西武建設の株式の95%を取得する。

 西武建設は西武鉄道(株)の100%子会社(西武HDから見ると孫会社)で、駅舎や西武グループの関連事業の建設や沿線の戸建住宅を手がけている。21年3月期の売上高は686億円、純利益が24億円で、黒字を確保している。

 3月31日に株式が譲渡される予定で、西武HDは西武建設の株式売却益約380億円を特別利益として計上するため、22年3月期の最終損益の見込みを140億円の赤字予想から90億円の黒字に上方修正しており、2年ぶりの黒字転換だ。

西武HDの業績推移

(つづく)

【森村 和男】

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