公共と資本のレイヤー|再開発から見る「都市と建築」(3)
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春めいてきたので、今回は再開発エリアを歩いてみよう。最新の事例から、低層・高層ビル、話題になったオリンピック施設までをピックアップして、1日で一筆書きに歩いてみる。物件は、郊外から都心に向けて鉄道路線に従って選んでみたが、図らずも今日的な様相を写すものになりそうだ。では、行ってみよう。
下北沢の商店街
京王・井の頭線に乗って下北沢駅で降りると、クロスする小田急・東北沢駅から世田谷代田駅の地下化にともなって発生した2万7,500m2の細長い鉄道跡地が伸びる。そこに近づくと、木造の簡素な小屋でつくられた“村”のようなものが見えてくる。
建物と建物の間を、人々が縫って歩いている。有機野菜の販売所やワインバー、地域ラジオ、ライトなアートギャラリーが建物に押し込められて、祭りの出店のようにあふれている。木の柱、梁、床の根太、屋根の野地板を表しにして、そこに銀色のサイディングだけを貼ったようなざっくりとした小屋が出店に馴染んでいる。奥には幼稚園、もっと奥に行くと、落ち着いた料亭が複数見えてくる。
下北沢は古着屋の多いストリートとして有名だが、そこを古着で歩く若者が、パートナーや子どもと少しずつ歳を取り、また新しく古着を買って訪れる村が、住宅街に向けて馴染ませてある、そんな感じである。若い夫婦向けの教育的配慮がなされている。
新・渋谷駅
そこから京王・井の頭線で約6分、渋谷駅周辺の再開発ビル群は、ようやく全体の姿をイメージできるくらいに建ち並んできた。
この谷底のビル群は、低層部に公共の回廊を取り巻いている。地下の東横線、副都心線、田園都市線、半蔵門線から地上のJR、銀座線への立体的な連絡通路が、ビルのファサードにガラス張りで貼り付いている。渋谷スクランブルスクエアビルのガラスのマリオンは、道玄坂に向かって潜り込んでいく銀座線に引っ張られるように斜めに伸びている。高層ビル群の建築審査を担った建築家の内藤廣氏は、ビルオーナーたちへ建物の前面を公共に開くよう説き、もし商業空間だけを考えたデザインが提出されてきたら変更させた。「会社の役員に合意を取ってきたプレゼンをしているんでしょ?覆されたらどうするの?」と審査会で言ったそうである(YouTubeチャンネルTOKYO2021「2021#interview|内藤 廣」)。
立体的な公共回廊は迷いそうにはなるが、慣れてしまえば谷底を縦横に回遊する楽しさがある。これまでの鉄道ターミナルビルは、鉄路をビルが飲み込んで、駅空間はビルのデザインに表現されていなかった。それを渋谷らしくひっくり返して表した、そんな感じである。
<プロフィール>
角 玲緒那(すみ・れおな)
1985年北海道生まれ、札幌市立高等専門学校、九州大学21世紀プログラム、九州大学芸術工学府博士後期課程単位取得退学。専門は建築。現在は歴史的建造物の保存修復に従事する。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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