2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

【神風、円安2】TSMCの日本拠点強化と日台協力が産業復活のカギ(5)

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2022年5月6日の「日本産業復活の神風、円安がやってきた!!(2)TSMCの日本拠点強化と日台産業協力がカギに」を紹介。

(3)補論、大きな政府を必然とするハイテク産業の国家間競争

ストラテジーブレティン284号 2021年7月13日発行より

 現在のハイテク・半導体・ソフトウエアなどの先端分野では、自由貿易の原則が通用しないことを認識しておく必要がある。ハイテクなどの先端分野のコストの圧倒的部分は過去投資の累積額(R&D投資、販売網構築、事業買収)であり、賃金・インフレ・為替などマクロ経済要因が影響力をおよぼす変動費は微々たるもの、マクロ政策調整がまったく効かない。いったんハイテク強国になってしまえば、どんなに通貨高、賃金高になってもその競争力は奪えなくなる。これは履歴効果と呼ばれ、収穫逓増の原理が働く世界である。つまりWinner takes allとなり、容易には破壊されない。

 国家資本主義の中国においては、国家的プロジェクトによるハイテク企業育成のパワーは、ファーウェイの急速な台頭に見るように絶大である。中国の極端な重商主義が圧倒的に有利に働いたため、対抗するにはトランプ政権が通商摩擦を引き起こす必然性があった。が、それでも不十分であり、バイデン政権は国家ぐるみの産業育成に乗り出しつつある。

 今やファーウェイの強さは普通の市場競争ではまったく抑えられないところにきているが、ファーウェイの台頭は中国の国家関与の好例であろう。なぜ、ちょっと油断している隙にこんなことになったのだろうか。ファーウェイの圧倒的開発投資に原因がある。図表11に見るように、過去10年間にファーウェイの研究開発投資は10倍(2009年19億ドルが19年189億ドルへ)になったが、この10年間、他企業はほぼ横ばいという驚くべき実態がある。

 このファーウェイの圧倒的な研究開発投資は国策による支援があったからとしか考えられない。政府支援の下で圧倒的な価格競争力をもったファーウェイが、市場価格に基づく高コストの他企業を圧倒し、通信機産業全体の企業収益を破壊し、他者がまったく対抗できない事態を引き起こしたことは明白である。国家資本主義によるソーシャルダンピングの典型例といえる。米国政府内では国産通信機企業育成の可能性が検討され、シスコなど関連メーカーにエリクソン、ノキアの買収、あるいは資本参加を呼び掛けたが、シスコなどの米国メーカーは、それら企業は低収益でとてもではないが買収対象ではないと断ったと伝えられる。

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 とうとう米国政府は世界最強の5G関連設備企業に飛躍したファーウェイを締め出すのみならず、他の多くのハイテク分野でも中国排除を推進し、中国を排除した新たなグローバルサプライチェーンの構築を進めようとしている。競争の土俵を同一にする(level playing field)には、米国も企業支援をしなければならないということになったのである。2020年代に入って世界的に一段と強まった脱カーボンの動きも、政府関与が決定的である。炭素排出に関して経済的ペナルティーとアドバンテージを与え、特定産業・企業を支援することは、まさに民間に対する公的介入になる。

(つづく)

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