2024年04月19日( 金 )

UAEハリファ大統領の逝去 MBZに期待(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

中東屈指の金融と観光の大国に

アラブ首長国連邦(UAE) イメージ    7つの首長国で構成されるアラブ首長国連邦(UAE)の発展を指導し、同国の国際的な地位を高めるうえで大きな貢献を重ねてきたアブダビ首長国出身のハリファ大統領が逝去されました。5月13日のことです。17年以上にわたり、UAEの潜在力に注目し、経済の近代化や軍備増強を推進し、UAEを中東屈指の金融と観光の大国に押し上げたわけで、その逝去を悼む声は隣国のみならず欧米諸国、そしてアジアの日本やインドなどからも多く寄せられています。

 ハリファ大統領は2014年に脳卒中に見舞われて以降は、公の場にはめったに姿を現しませんでした。しかし、「水面下で国家の発展を指導してきた」と、多くの海外のトップが証言しています。逝去の報を伝えたムハンマド皇太子は2014年以降、実質的な大統領代行でしたが、曰く「UAEは正義の息子を失った。UAEの輝かしい発展の歴史を築いた偉大な指導者がこの世を去った」。UAEでは今後40日間、全土が喪に服すことになります。

 時を経ず葬儀が執り行われました。最も注目を集めたのは、アメリカのバイデン政権の弔問外交でしょう。なぜなら、バイデン大統領の名代としてハリス副大統領を団長に、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官、バーンズCIA長官、ケリー気候変動対策長官など、主要閣僚やホワイトハウスの事務方トップも勢揃いし、アブダビを訪問したからです。まさに「オールスター弔問団」に他なりません。

 そこまでバイデン政権がUAEに接近を試みたのにはワケがあります。その最大の理由はロシアと中国の存在です。ウクライナ戦争が勃発し、ロシアはアメリカ主導の経済制裁の対象になっています。しかし、中国もそうですが、サウジアラビアもUAEも必ずしもアメリカの対ロ制裁に同調しているわけではありません。

 それどころか、UAEは国連によるロシア非難決議案には賛成せず、棄権という選択肢を選んできました。戦争当事国のどちらかに付くのではなく、あくまで独立、中立の立場を保持するのが国是というわけです。

 ロシアからのエネルギー供給を遮断することになり、ヨーロッパ諸国は代替先を確保すべく必死になっています。サウジアラビアもUAEも原油や天然ガスの増産を求められているのですが、両国とも増産には同意する姿勢を見せません。増産による値崩れを恐れているからに違いありません。

大弔問団派遣の背景

 そのため、バイデン政権とすれば、ムハンマド新大統領との関係を強化し、UAEがこれ以上、アメリカの意向から離反しないように圧力をかけようとしているわけです。とはいえ、したたかなUAEはこの期におよんで、アメリカ製のF-35ジェット戦闘機の輸入を中断するとの決定を下しました。ウクライナでの戦争特需に沸いているアメリカの軍需産業ですが、在庫一掃セールの状態で、最先端のF-35のような戦闘機や武器は売れません。

 その点では、アラブ諸国はアメリカ製の最先端兵器のお得意先なのです。そこから「ノー」と言われては、バイデン政権も真っ青でしょう。必死で形勢逆転を狙っているわけで、そうした駆け引きに関して見れば、UAEは交渉上手といえます。日本とは大違いです。

 いずれにせよ、UAEはロシアや中国との関係も維持しながら、アメリカともうまく立ち回ろうとしているわけです。ウクライナ危機が発生する前は、アメリカにとっては中国が最大のライバルであり、脅威の源泉でした。しかし、ロシアの軍事侵攻によって、ヨーロッパとアジアの2正面作戦を余儀なくされる事態に陥ってしまったようです。

 アメリカとすれば、当面はウクライナを通じてロシアと対峙せざるを得ないため、そのためにはNATO諸国のうち、ロシアのエネルギー依存度の高い国々のためにも、中東からの資源を供給できる体制を構築せねばなりません。その要がUAEなのです。

 バイデン政権が前代未聞の大弔問団をUAEに送り込んだ背景は、そこにあることは間違いないでしょう。アメリカはUAE内には3,500人の陸軍部隊を駐留させ、シリアやイラクにおけるイスラム過激派の動向を監視しています。そうした軍事拠点を確保しているのですが、このところ関係がギクシャクしているため、バイデン大統領は何としてもUAEとの関係を改善したいと考えているわけです。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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