2024年05月06日( 月 )

「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【2】商いと暮らしの中和点を論考する(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

物流の革命

 牛丼の吉野家は「牛丼ひとすじ」という新しい業態を開発してメニューを絞り、チェーンを展開して繁盛していた。一方、ヤマト運輸の得意とする分野は、昔から小さな荷物である。消費者に近い小規模企業や家庭から出る荷物。ならば思い切って対象とする市場を変え、メニューを絞って新しい業態を開発したら、道が開けるのではないだろうか、当時社長であった小倉昌男氏の大きな賭けだった。

拾わない限り仕事は始まらない
拾わない限り仕事は始まらない

    今では当たり前のように届く荷物も、その始まりでは大きな苦難があった。「個人の荷物をどう集荷するか」――。市場に参入するうえで避けることのできない大きな課題だったが、“全国規模の集配ネットワークを築けば大きなビジネスになる”。そのような成り行きによって、日本社会における「どんな辺鄙な場所でも荷物が届く」という運送、流通、物流の骨格が形成されていったのだ。

個人の荷物をどう集荷するか

 商業貨物は、池に溜まった水を汲むようなものである。バケツを使おうがポンプを使おうが、とにかくドラム缶にすくって運ぶのは簡単である。一方、宅配の荷物は地下水のようなものである。地上からは手が届かないから、一見どうやって水を汲めばいいかわからない。でも手はある。地面に打ち込んだパイプにホースをつなぎ、ポンプで吸い上げればよい。そうすれば水を汲める。そんな工夫をすれば、あとはドラム缶に移して運ぶことができるはずだ。そんな着想から出てきたアイデアが、取次店の設置である。

 酒屋とか米屋など、家庭の主婦になじみのある商店に取次店になってもらうよう依頼し、主婦には取次店まで荷物を運んでもらう。あとはヤマト運輸の集荷車が取次店を回り、営業所に荷物を集める。近年はコンビニなどが取次店に積極的に加わり、1999年3月末時点で全国の宅急便の取次店数は29万7,000軒である(ちなみに全国の郵便ポストの数は約16万)。

大阪線8トン車(1960年から車色と塗装デザインを変更)企業HPより
大阪線 8トン車
(1960年から車色と塗装デザインを変更)
企業HPより

    まず、各都道府県に最低1カ所、運行車の基地となるベース(B)を置く。人口・荷物の多い東京や大阪などの地域には2~3カ所を設置。そして毎晩BとBを結ぶ大型トラックが運行する。Bには到着した荷物を配達したり、地域の客からの荷物を集荷したりする営業拠点として、20前後のセンター(C)が所属する。Bがハブなら、Cはスポークだ。そしてCには、荷受けを専門にやるデポ(D)や取次店が所属する。客から配送の依頼があった荷物は、まずDからCへ集められ、さらにBに横持ち(移送)されて仕分けられる。仕分け済みの荷物は、ボックス・パレットに入れて大型運行車に積み込まれ、目的地をカバーするBに向けて運ばれる。このB‐C‐Dのネットワーク(ハブ・アンド・スポーク・システム)が円滑に作動することで、どんな荷物でも全国に配達することが可能になった(センターの目標数は当時の全国の警察署の数1,200カ所だった)。「サービスが先、利益は後」は、小倉昌男氏の口癖だった。

▼関連リンク
「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事