2024年04月26日( 金 )

「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【2】商いと暮らしの中和点を論考する(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

「クロネコヤマト」の誕生

クロネコヤマトの宅急便(企業HPより)
クロネコヤマトの宅急便
(企業HPより)

    ヤマト運輸は1919(大正8)年11月29日、東京・京橋区木挽町(現在の銀座三丁目)において、トラック4台で運送事業を開始した。当時、全国のトラック台数は204台に過ぎなかったらしいので、先駆的な試みであったといえる。当時のヤマト運輸の業績は、輸送速度を生かした鮮魚の輸送や三越と市内配送の契約を締結するなどして、順調に伸ばしていた。とくに関東大震災では、復興のために輸送需要が飛躍的に高まったこともあって、この成長に拍車をかけた。長距離輸送は戦前まではもっぱら鉄道の仕事とみなされていたが、そこにトラックが進出できたのはなぜか。それは、①「道路の改良」、②「トラックの質の向上」、③「輸送需要の拡大」などが挙げられる。

 鉄道輸送は、軌道上では時速70km以上の高速を出せるが、その貨物を方面別に連結するのに3~4時間を要する。このため、列車の出発時間の相当前に駅に貨物を持ち込む必要があった。もし遅れたら、翌日の列車に回されてしまう。その点トラックは、工場で貨物を積めば何時でも出発できる。仮に平均時速が30kmでも、ドア・ツー・ドアで鉄道に負けないスピードになる。これが、トラック台頭の最も大きな要点だったのかもしれない。戦後を経て出荷単位が大きくなり、トラックが荷物を満載して走れるようになると、運賃も次第に割安になり、荷主も喜んで利用するようになったのだ。

商業貨物から個人宅配へ

経営学_小倉昌男
経営学_小倉昌男

    運送業が対象とする市場は、大きく分けて2つある。1つは、生産から消費に至る商業貨物の輸送市場である。それに対し、商取引とはまったく関係ないもので、たとえば田舎の親戚から都会に住む人に野菜を送るとか、単身赴任のご主人から自宅に衣類を送るとか、いずれも個人の生活のなかで偶発的に起こる輸送需要である。

 商業貨物の輸送市場は、産業活動に付随して必要とされるもので、流通活動を支える物流の大きな部門を占め非常に重要なものだった。その特色は毎日または毎月決まって出荷され(反復的)、荷主によって輸送ルートは決まっており(定型的)、輸送ロットは中または大口で(大量的)、運送業者にとって扱いやすい対象である。そしてトラック会社の経営は、ほとんどがこの商業貨物を対象とした輸送市場で行われていた。

 それに対して小口輸送の分野には、トラック業者はまったく参入していない。なぜかというと、いつ、どこの家庭から出荷されるかわからないし(偶発的)、どこに行くかも決まっておらず(非定型的)、その需要はつかみどころがないからである。1970年代前半、この個人向け市場で事業を展開しているのは、郵便局の小包だけだった。民間業者が参入していなかった理由は、採算が合わないことがはっきりしていることと、信書は郵便法で郵便局以外の参入を禁じており、それに違反すると3年以下の懲役という罰則もあるような時代だった。そのころのヤマト運輸は、業界ではCクラスの会社で業績はあまり良くなく、Dクラスに転落するかの瀬戸際の会社経営が続いていた。そんななかで競争相手が郵便局しかいないというのは、とても魅力的な市場だったに違いない。

▼関連リンク
「棲みごこち」と商業はどこまで混ざるか【1】 人口減少下にあるべき商業とは


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

(中)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事