2024年05月09日( 木 )

解体“一式”工事の確立へ(前)

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 建設業でありながら建てるのではなく“壊す”ことで、まちの新陳代謝に寄与している解体工事業。福岡県内の解体工事業者間の情報交換や関係性の構築および強化を担う(一社)福岡県解体工事業協会の会長・平典明氏に、業界を取り巻く現状や課題、解決策などについて話を聞いた。

(一社)福岡県解体工事業協会
会長 平 典明  氏

さまざまな知識・工法を駆使

(一社)福岡県解体工事業協会 会長 平 典明 氏
(一社)福岡県解体工事業協会
会長 平 典明 氏

    ──解体工事の概要についてお聞かせください。

 平 解体工事とは一言でいうと、建物や家屋を取り壊して撤去することです。とはいえ、「更地化」「減築など一部取り壊し」「改修、リフォームなどにともなう内装の解体」など、工事内容は一律ではありません。また、木造・S造・RC造など建物の構造や立地によっても、工法や工期が変わってきます。

 以前はミンチ解体の業者もいましたが、現在では分別解体を行っています。ミンチ解体は重機で一気に取り壊すので、工期も短く費用も安く済むものですが、廃棄物が混ざり合ってしまいリサイクルが難しく、アスベストが飛散するなどの危険性があったことから、2002年5月に本格施行された建築リサイクル法で禁止されました。

 分別解体は、解体工事で発生する廃材を品目ごとに細かく分別しながら解体する工法です。解体工事にはさまざまな知識が必要です。一般的な建築土木の知識の他、解体工事に関する各種工法や施工手順、産業廃棄物の処理やリサイクル、アスベスト・フロン・PCB等の有害物の処置など多岐にわたっています。

 ──解体工事にも、さまざまな工法があります。

 平 まったく同じ建物というのは団地以外では少なく、解体工事は標準化が非常に難しい工事です。木造の場合は、手壊し工法と機械解体工法があります。重機で取り壊す前に、ある程度は手壊し解体を行い、廃材を分別した後に機械解体を行います。S造やRC造、SRC造の場合は、圧砕工法が一般的です。圧砕工法とは、油圧ショベルの先端にハサミ状のアタッチメント(圧砕機)を取り付けてコンクリートを破砕する工法で、振動や騒音が少ないのが特徴で住宅密集地や商業施設で多く用いられています。他にブレーカ工法、ワイヤーソーイング工法など、さまざまな工法があります。建物の構造、立地、コストにより適切に使い分けが必要です。

解体工事業の地位向上へ

2017.1.12青果市場合同訓練
2017.1.12青果市場合同訓練

    ──会長を務められている(一社)福岡県解体工事業協会について、お聞かせください。

 平 福岡県解体工事業協会は、1978年に任意団体として始まりました。80年に解体工事業者の技術的・経済的および社会的地位の向上と公共の福祉を増進することを目的に、社団法人福岡県建造物解体工業会として設立し、2014年の一般社団法人への移行を経て、20年4月に現商号に変更しました。現在、正会員69社、賛助会員44社で構成されています。

 当協会の活動は大きく分けると「安全」「環境」「防災」「交流」の4つの取り組みを柱としています。

 『安全』では、毎年1回の安全大会と毎月の安全パトロール、指定教育機関などによる「作業主任者教育」や「職長教育」など解体に関わる各種講習への参加を促したり、実施機関と共同で「石綿含有建材調査者講習」を企画したりしています。その成果により19年に第56回全国労働安全災害防止大会で建設業災害防止協会から表彰状を拝受いたしました。

 『環境』では、産業廃棄物のリサイクル、現場周辺の環境保全などの点検を行う環境パトロールを実施しています。この活動に対して、20年に福岡市から「環境行動賞・奨励賞」を拝受いたしました。

 『防災』では、09年1月に北九州市消防局と消防活動等に関する協定を締結したのを皮切りに、12年3月には福岡市消防局と同協定、17年2月には福岡県と災害廃棄物の処理等の協力に関する協定の他、空き家に関する協定を含めると現在までに自治体および消防局と10の協定を締結しています。

消防局との合同訓練
消防局との合同訓練

    協定に基づく活動の例として、消防隊員が防災訓練する際の訓練場所として、実際の解体工事現場の提供を行っています。それまでは、消防隊員の方が自分たちでつくったセットを用いて訓練していたので、本来の建物とは違ってすぐに壊れてしまい、思うような訓練ができなかったと聞いています。実際の解体工事現場を用いると、壊す方法もさまざまでとても大変ですが、実戦と同様の訓練が可能になります。訓練では解体工事業者の職人が消防隊員へ壁などの構造物を上手に壊す方法の助言を行います。参加した職人から「消防隊員の方たちから敬礼されて『ありがとうございました』と言われ、自分たちの仕事がこのように役に立っているのだと実感できて、とても嬉しくて涙が出そうになった」と聞き、私自身そのときの彼らの誇らしげな顔を見るのが本当に嬉しかったことを覚えています。こうした機会の創出は、消防隊員の方だけではなく私たちにも多くの学びがありますし、職人たちも自分の仕事にプライドをもつことができます。

 また、私たち解体工事業者は、地震や火災などの災害時にも緊急出動します。17年5月に発生した九州北部豪雨や18年7月に発生した西日本豪雨災害の活動に対しては、19年3月に北九州市より、同年4月には福岡県より感謝状を拝受いたしました。最近では、2回にわたる北九州市の旦過市場の火災の際にも、当協会の会員から延べ9社が緊急出動しました。このような実績が評価され、21年に消防庁主催の第26回防災まちづくり大賞で日本防火・防災協会長賞を拝受いたしました。

 『交流』では、会員企業への情報提供や、他社の取り組み・課題に対する解決策などの情報を共有しています。各種委員会では行政・関係団体との意見交換会、セミナー、親睦ゴルフ大会、委員懇親会、他県への現場見学会などを企画運営しています。また、解体工事施工技士に関しては全解工連が主催する「技術講習」「資格試験」「登録更新講習」の支援も行っており、受講者・受験者の数は毎年200名前後になります。積算委員会では公共工事の積算協力、解体工事の積算本の発刊、改訂を行っていて、その信頼性から福岡県不動産鑑定士協会へ積算業務の協力を行っています。会員はこのような活動に参加することで、同業者間の横のつながりができることも大きな成果だと思います。

 その他に、協会の社会的な信頼を得るために福岡県の「飲酒運転撲滅推進運動」への協力、福岡県警察と「暴力団排除に関する協定」を締結して健全運営に努めております。

 こうした協会の活動実績と成果もあって、解体工事業団体として日本で初めて19年に国土交通省局長表彰を拝受いたしました。おかげさまで会員数は年々増加傾向で推移しています。近年では、解体工事の需要の高まりを受け、スクラップ業者や産業廃棄物処理業者などからの参入も少なからずあります。20年に法人設立40周年記念式典を行う予定でしたが、コロナ禍のため中止いたしました。その代わりとして来年6月9日に、全解工連の全国総会を福岡に誘致しました。全国の会員の皆さまに集まっていただいた折には、さまざまな活動をお披露目したいと思っています。

(つづく)

【内山 義之】


<プロフィール>
平 典明
(たいら・のりあき)
1961年、福岡市出身。高校卒業後、大手資材メーカーに勤務しながら専門学校を卒業。退職後、(株)平組に入社。95年同社代表取締役に就任。2001年社団法人福岡青年会議所・副理事長。09年5月より(一社)福岡県解体工事業協会・会長を務める。11年大学卒業。19年上部団体である(公社)全国解体工事業団体連合会・副会長。博多ロータリークラブ・会員。
 

(後)

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