2024年04月19日( 金 )

WF再開発への提案、北天神・長浜に「界隈」を(中)

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 博多は、全国屈指の好漁場である玄界灘を擁した生産地機能と、福岡都市圏を背景とした消費地機能の二面性を有する、全国で類を見ない特性をもった港湾都市といえる。博多港は中国の沿岸都市や韓国など東アジアの都市とも行き来しやすい位置にあり、九州内の外国貿易で使用されるコンテナ取扱量の半分を占めている。24時間コンテナを扱うアイランドシティ、香椎パークポートのコンテナターミナルをはじめ、自動車などさまざまな荷物を扱う箱崎ふ頭、石油が集まる荒津地区、鮮魚の長浜地区、穀物の須崎ふ頭、ガスの貯蔵タンクがあり建設資材が運ばれる東浜ふ頭、中央ふ頭には全国有数の国際旅客ターミナル「博多港国際ターミナル」と「中央ふ頭クルーズセンター」がある国内屈指の交易の拠点だ。

 福岡市の中心地と近距離にある港湾機能。海と近い位置にあるその特異な地理環境は、水辺のまちづくりに活かされているだろうか。今回、北天神/長浜を通してウォーターフロント再開発の可能性を模索してみたい。

再開発へ4つの提案

 北天神の再開発地をどのような装置に仕立てるか。長浜1449号線沿いや長浜界隈、天神方面へ滲み出していくぐらいのエリア一帯を巻き込む仕掛けを、この場所に埋め込む。そのアイデアを4つの環境アプローチから提案してみたい。

(1)【魚】…食の都/福岡らしい“食材”を軸にしたコミュニティ

 繁華街から沖海まで、背中のない内部空間がシームレスにつながる空間へ転換できないだろうか。箱と箱が接触する構造物を解体する、もしくは意識的にでも連続性をもたせて、賑わいの生まれる場所として解放する。だから鮮魚も競艇も背中を廃し、エンタメとレジャーの側面を残しながら、市街地との融合を目指す。たとえば魚を利用した食のエンターテインメント、博多の鮮魚を集めたネオ横丁や寿司横丁。寿司店の大将が世代別(20代、30代、40代、50代)に並ぶ世代別出店も、個人の顔の見える商いで面白い。福岡の人気ラーメン店が通り沿い100mほど、のれんを連ねて子ども向けの屋台フェス。海のスポーツを織り交ぜたライブショーの開かれるステージやコレクティブ空間など。

(左)仕掛けづくりは場所づくり、(右)魚を使ったコミュニティをつくる
(左)仕掛けづくりは場所づくり
(右)魚を使ったコミュニティをつくる

(2)【アート】…長浜ブランド×アート

 むしろ、(1)とは逆のアプローチで、その壁と壁に挟まれた場所をアーティストたちに解放する。期間限定でも、その時間に彼らはその場所の文脈を読み取り、刺激的なインスタレーションを生み出していくだろう。たとえば巨大な壁面壁画とか、魚の群像を模したオブジェだとか。魚を使った食のアートでもいいだろう。そこがもし都市の余白としてフレキシブルなキャンパスとして機能するようであれば、さまざまなテストマーケティングや実験の場として、もしくはきれいで優しくなりがちな再開発のアンチテーゼとして尖った人・変な人たち(汚いものもしくは人間臭さやノイズのようなもの)を許容し、ちゃんと取り込んだアンダーグラウンドな場所として生かし続けるというのも多様性かもしれない。かつて親不孝通りのネーミングをブラックジョークに使ったような手法で。長浜を象徴する“魚”のキーマンを集結させるカルチャーの発信。そのための装置を設える。

(左上)大きな壁画:長浜1449号線沿いより(左下)壁面アート:海沿いのビルより(右)壁面アート:海沿いのビルより
(左上)大きな壁画:長浜1449号線沿いより
(左下)壁面アート:海沿いのビルより
(右)壁面アート:海沿いのビルより

(3)【自然資本】…広場と公園

 中央に都市型のスケートボードパークを配し、周囲を芝生広場へ、外周をキッチンカーが蜷局(とぐろ)を巻いて並ぶ野外飲食フェス形態。ギャラリーとオーディエンスとフードコートを兼ねた、ごちゃ混ぜの世界観。

 日本では、公園・緑地は経済的価値を生まないために、空間的余裕がない都心部では排除されるか、極めて低い優先順位しか与えられてこなかった。しかし今後はその発想を逆転させ、都心部が貴重な経済的空間だからこそ公園・緑地を配置することで、その土地・不動産の経済的価値が高まることに留意した開発を行っていく必要がある。都市は、緑の豊かさや美しい都市景観が人々を引き付ける大きな要素になり、都市政策上の競争優位になる。「成熟型の都市経営」では、自然資本を最も重要な資産かつ戦略的資源と位置づけ、積極的な投資対象として見なすべきだ。

(左)広場と公園とスケートボードパーク(右)キッチンカーによる飲食フェス(H.L.N.A ZOZOTOWN HPより)
(左)広場と公園とスケートボードパーク
(右)キッチンカーによる飲食フェス(H.L.N.A ZOZOTOWN HPより)

(4)【文脈】…温泉や釣り堀の記憶を途絶えさせるのはもったいない。

 公園、ネオ横丁NAGAHAMA、ミクスドユース、コンテナ店舗の滞留基地、足湯につかりながら釣りが楽しめるポケットパーク。ここにあったものを継承していく懐深さも、博多らしい。若者のまち・天神の中心街から少し足を延ばしたウォーターフロントエリアに、エンタメやレジャー機能を追加する。イベント回遊できるように飲食機能を織り交ぜて、参加型・滞在型のアミューズメント施設をミックスさせていく。

 まち全体をキャンパスとする福岡テンジン大学は、プロジェクトベースでコミュニティの輪を広げていく有志組織だ。福岡の街のあらゆる場所が教室になっていく。誰もが先生になり、誰もが生徒になれる。一緒になって対話し、つながり、学び合う。そんな事務方の拠点をここに誘致するのもいいだろう。

(左)釣りの文脈は残したい、(右)都市の中に自然資本は増やせるか/参考:アイランドシティ中央公園
(左)釣りの文脈は残したい
(右)都市の中に自然資本は増やせるか
/参考:アイランドシティ中央公園
(福岡テンジン大学公式HPより)
(福岡テンジン大学公式HPより)

21世紀型の都市産業政策

港湾の都市開発はどうあるべきか
港湾の都市開発はどうあるべきか

    利潤創出の源泉は、工場や社会資本などの物的基盤を利用した物質生産から、情報や知識を基盤とする非物質的生産に重点が移行する。人もまたしかりで、これからのビジネスモデルを可能にするのは、新しいアイデア、斬新なデザイン、知的財産の創出、新しい社会的仕組みの提案、そしてブランド創出など、非物質的要素に移っていくだろう。

都市公園成功例:渋谷区立宮下公園

 商業施設と公園がミックスした次世代型の都市公園「RAYARD MIYASHITA PARK(レイヤード ミヤシタパーク)」は、「立体都市公園制度」を利用した公園一体型の商業施設だ。「立体都市公園制度」は、都市公園の地下を多目的に利用し、建築物の屋上や人工地盤上に公園を設置することを可能にした制度。

 店舗低層フロアには、ラグジュアリーブランドなど約90店が入り、個性豊かな渋谷の新たな「ストリート」となっている。南街区1階には、日本の古き良き横丁文化を発信する「渋谷横丁」を構え、2~3階には公園のアクティビティと親和性の高いスポーツブランドやカルチャーブランドを配置。原宿エリアやキャットストリートとつながる北街区1、2階には高感度なファッションブランドをそろえている。4階の屋上部分は1,000m2の広大な芝生公園。広場の南側エリアには、渋谷ストリートの象徴として親しまれてきたスケート場やボルダリングウォール、ビーチバレーなどのサンドスポーツが行える多目的運動施設などが設置されている。

MIYASHITA PARK 芝生広場 公式HPより
MIYASHITA PARK 芝生広場 公式HPより

コミュニティ成功例:南池袋公園

南池袋公園はコミュニティが集う(豊島区HPより)
南池袋公園はコミュニティが集う
(豊島区HPより)

    平日でも子ども連れのママたちが、安心して子どもを遊ばせながらおしゃべりをするなど、公園に隣接するおしゃれなカフェでお茶を楽しんでいる。また、休日のマルシェにもたくさんの人が訪れる。広い芝生広場で思い思いに過ごす公園の風景は、治安が悪いともいわれる池袋のイメージを一新したともいえるだろう。しかし、鬱蒼とした樹木を整理し、明るい芝生広場とカフェを整備すれば、すべて成功できるわけではない。

 南池袋公園は、池袋というターミナル駅から300mという立地に、約8,000m2の大部分を占める広々とした芝生広場の整備と、地元の人気カフェ「ラシーヌ」を誘致できたという好条件がそろっている。その好条件に、地元のコミュニティ「としま会議」を母体にしたフレンドリー・コンシャスな運営が重なった結果といえる。このような「集住立地×整備規模×魅力収益施設×コミュニティ運営」の四拍子がそろったことが成功の秘訣だと読み取れる。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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