2024年04月28日( 日 )

艶街千早~艶と顔の見える学びの連鎖を~(6)

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 福岡県は、福岡県立福岡高等技術専門校の跡地について、PPP(公民連携)の一手法である「定期借地方式による土地貸付」による有効活用を図ることとし、公募型プロポーザル方式により民間事業者を再公募した。地の利と場所の文脈、それに相性の良い戦略を、例によってこの場を借りて提案してみたい。

技を会得する「飲食塾」

これから必要な能力(出典:経済産業省HP)
これから必要な能力(出典:経済産業省HP)

 新人や、再出発をする転職者、新たな分野への挑戦者など、若い人を応援する調理スキル取得のための飲食塾を運営しているG-FACTORY。店舗併設の“実践料理人スクール”が注目を浴びている。

 たとえば業界では、一人前と称されるまでに時間のかかる寿司職人は、約3カ月でノウハウを学び、客の前に立てるまでに集中教育を施す。入塾してすぐに寿司を握らせてもらう、市場で魚の目利きや血抜きの技術も叩き込まれる等、1カ月後には新人研修というかたちで、実際の店舗カウンターに立ち、事実上デビューする。研修という名目を謳い、コースで2,000円程度と値段はリーズナブルに抑える。しかし、店構えやネタは良いものを使い、個別の接客サービスや会話も誠心誠意対応するため、客の満足度も高く、評判も良い。場数を踏むことで、職人の成長もやはり早い。この飲食塾を出た卒業生は、G-FACTORYが展開する自社ブランドの店舗への就職も可能で、海外で人気の高い直営寿司店では、職人は引く手あまたのようだ。

 平均年収が下がり続け、給料が上がらない日本を飛び出して海外で稼ぐことを目標に動き出す若者も増えてきた。年収も待遇も良い海外就職という流れは、日本の人材流出という点では悩ましい点だが、「和食を世界に!」というスローガンの下、卒業生が海外へ行くことで一緒に会社も成長していける「食・文化・人」の架け橋を、戦略的に仕掛けるG-FACTORYの狙いは今後も注目だ。

飲食スクールの横丁提案

飲食スクールの横丁提案

 G-FACTORYが展開する飲食塾のようなスキル取得スクールを、誘致しても良いだろう。飲食を学び、またその新人が提供するサービスを求めて人が集まる。そんなスクール併設の飲食街、小さな飲み屋が軒を並べるような横丁があっても良い。また、飲食だけではなく、日本の丁寧な仕事振り、繊細な作業を得意とするおもてなしなど、職人技は和食だけにとどまらない。美容師やネイリストなど美容関連、ネイルやアロマなどのリラクゼーションサロンなど、プロの技を海外で示せるようなスキル習得場所としての発信基地を、小さな集積のオープンコミュニティとして構えても良さそうだ。東南アジアの女性たちは昨今、ヘアケアへの関心が非常に高いなど、時流の後押しもあるので、アジアと距離の近い福岡は、食や美容やおもてなしで海外とつながりをつくりやすい相性の良い立地にある。

 職人技を学んだ若者が海外へ進出することは、広く見ればインバウンドの開拓者であるともいえる。海外で和食を食べ、その感動を求めて日本へ旅行する、ここで学んだ若者が海外へ展開し、そこから派生したファンコミュニティが本陣を求めて、日本のこの場所に立ち寄ってくる。

 また、ソフトスキルを学びながら実践する、体験型のリスキリング教室。たとえばコミュニケーションスキル、リーダーシップスキル、自発性などそれぞれのテーマをもたせた「新人教育×業態」を掛け合わせた「飲食塾」「美容塾」「オンライン塾のリアル店舗空間」を配置するなど。そんな人のサイクルを生み出し、そのきっかけとなる先駆者を育てる場所としてアピールしても面白そうだ。

 文脈は“学び”、地の利として(高等技術専門校のように)“スキルUPの場”、人への投資戦略として“リスキリング支援”。そんな機能が連鎖する空間の集積を、この地に築くのはどうだろう。スポガの軌跡も、ある意味ではスポーツにおける学びとスキルUPの歴史、まちの遺産だ。この地に流れてきた教育という脈絡をすくい取り、ちゃんとした公共の場に提供されていくことを、今後も期待していきたい。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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