2024年05月03日( 金 )

ツイッター買収を終えたマスク氏 その世界戦略は機能するのか?(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 つい昨年まで「向かうところに敵なし」といった風情を醸し出していた大富豪、イーロン・マスク氏。ブルームバーグの計算によれば、昨年時点での資産は2,400億ドルで世界一。1日平均で約4億ドル稼いでいたという。ツイッターの買収金額といわれる440億ドルなど、痛くも痒くもなかったのかもしれない。しかし、同社の唯一の取締役となった後は、旧経営陣全員の首を切り、従業員の半分に当たる3,700人にも解雇を言い渡すなど、大ナタを振るっているものの、いまだに課題山積だ。

大胆なリストラでツイッター社再建なるか

ツイッター イメージ    マスク氏による突然の解雇通告にツイッターの多くの従業員は戸惑いと怒りに駆られているようです。ITエンジニアを数多く輩出し、研究開発にも欠かせない役割をはたしていたインドでは、ニューデリー、ムンバイ、ベンガルなどの従業員の90%以上が首を切られてしまいました。

 インドのモディ首相はツイッターの愛好者で8,400万人のフォロワーを抱えています。自国の従業員が事前通告もなく突然解雇されたことに戸惑いを隠せず、決定の見直しを求めています。

 ツイッターにとってインドは有望な市場のはずですが、こうした「血も涙もない」と揶揄される首切りによる経営基盤の立て直しでは、反発や反動のほうが大きいことが懸念されます。インドではメタ・プラットフォームやGoogleなどライバル企業が数多くしのぎを削っており、これではツイッターは将来の巨大なインド市場を失うことにもなりかねません。

 マスク氏は中国とインドを天秤にかけ、中国を選んだのでしょうか。EV市場としては中国がインドをはるかに上回っており、テスラは上海に世界最大の工場を稼働させていますが、第2工場を建設すると発表したばかりです。しかし、ハードが主体の電気自動車や宇宙ロケットとは違い、ソフト面での開発が勝負を決するのがツイッターなどインターネットサービスの分野にほかなりません。

 はたして、イエスマンに囲まれたマスク氏にツイッターの再建はできるのでしょうか。サンフランシスコの本社では早くもエンジニア部門で人材不足が発生し、解雇したばかりのスタッフに再雇用の声かけが行われているようですが、一度離れた人心を取り戻すのは容易とは思えません。天才経営者の前途には暗雲が垂れ込めています。

依然ツイッターに注力 テスラはなおざりに

 こうしたツイッターをめぐるトラブルを見る限り、マスク氏といえどもどうやら「焼きが回ってきた」ようです。昨年1年間で2,000億ドル(約25兆円)も資産を失ってしまいました。失った個人資産額の大きさで「世界史を塗り替えた」ともいわれています。

 その最大の理由は、肝心のテスラ株が昨年1年間で65%も急落したためです。テスラ車で事故が多発したため、リコールが相次いでいます。ほかの自動車メーカーも電気自動車の製造販売を開始したこともあって、販売台数も伸び悩んでいます。

 しかも、マスク氏は株主や投資家から稼ぎ頭のテスラ復活に向けての陣頭指揮を執るように再三要請されていたにもかかわらず、ツイッターの経営再建に時間とエネルギーを取られ、テスラがなおざりになってしまったわけです。テスラは昨年末に大幅な値下げ販売に踏み切りましたが、売上は伸びませんでした。

 さまざまな批判に対して、マスク氏は「ツイッターを買収した後も、テスラの重要な会議には必ず顔を出している」とツイッターで反論していますが、効果はないようです。とはいえ、「話題になってなんぼ」が信条のマスク氏です。一向に落ち込む様子は見えません。それどころか、「誰か俺に代わってテスラのCEOになってくれるバカはいないか?」とツイートし、「そうしたバカが見つかれば、いつでもツイッターにオサラバする」とも言っています。また、「俺がなぜお金儲けにこだわるのかわかるかな?稼いだお金の半分は地球上の問題を解決するために使いたいからさ。残りの半分は地球上に人が住めなくなったときに火星に移住してコロニーを建設するためだ」と自己弁護。

 その理由がふるっています。「恐竜が絶滅したように、巨大な隕石が地球に衝突する可能性は否定できない。それでなくとも、第三次世界大戦が始まり核戦争となるリスクは高まる一方」だと。ウクライナ戦争に際しては、通信衛星を利用したインターネットのサービスをウクライナに提供しつつ、ロシアに対して停戦案を提示するなど、意外な働きかけを続けています。

核戦争への危機感強め 火星移住に望みを託す

 ゼレンスキー大統領、プーチン大統領、そしてバイデン大統領とも気脈を通じているに違いありません。しかし、そのマスク氏はこのままではウクライナ戦争の終わりが見えないどころか、米ロの核戦争に発展する恐れが迫っていると危機感を強めているのです。

 そうした「不都合な真実」をアメリカ政府が隠ぺいし、これまでもツイッターへの介入を続けてきたことをマスク氏は昨年末、暴露しました。アメリカ政府を敵に回してしまったわけで、自分の身を守る必要性を感じているようです。「俺は自殺なんて考えていないからな。もし、遺体が見つかり、自殺の可能性が高い、といった報道がされたとしても、それは隠ぺい工作だと思ってほしい」と話しています。

 一世を風靡しているマスク氏ですが、想定外の落とし穴に見舞われる可能性は否定できません。本人が一番わかっていて、それがゆえに、「火星への移住」計画に望みを託しているのかもしれません。火星には第1陣として20万人を連れて行くとのこと。日本が大好きなマスク氏ですから、日本人枠もあるはずです。皆さん、応募しますか?

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(前)

関連記事