2024年05月17日( 金 )

老朽化マンションをヴィンテージマンションへ、「改修工事業」確立を目指す技術士団体(後)

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(一社)マンション計画修繕施工協会
九州支部

MKSフォトコンテスト受賞作品「職人の勇姿」加藤紀惠子
MKSフォトコンテスト受賞作品「職人の勇姿」加藤紀惠子

 日本に分譲マンションが誕生して約70年になる。1962年の区分所有法制定以降、マンションブームを繰り返しながら建設され、マンションストックは増加の一途をたどっている。近年、中古住宅に関連する国の政策も増え始めているなか、今後はマンションの大規模修繕工事の需要がますます高まってくることが予想される。全国の改修専門工事業者らで組織され、マンション改修業という業種の確立に努める(一社)マンション計画修繕施工協会(MKS)の九州支部を取り上げる。

ヴィンテージ化とは

 MKSが事務局を担当する「ヴィンテージマンションプロジェクト推進協議会」は、国交省の補助事業「住宅ストック維持・向上促進事業」の採択を受け、マンションの維持保全に関わる諸団体、金融機関、国交省認可の保険法人で構成される。資産価値を向上させる大規模修繕工事やリフォームを行っても、その評価が反映されていないことが問題視されているが、協議会では適切な建物評価の在り方を調査・研究した情報公開や、賛助会員が扱うヴィンテージ化商材の展示会などを行っている。

 MKSは、ヴィンテージマンション構築の包括的なイメージとして、①行政が関与する「許認可」「インスペクション(建物状況調査)」「履歴管理」と、②地域コミュニティとの連携による「防災活動」や「高齢者対応」が「地域活性化」につながることで、「ヴィンテージマンション」が存在することができる(MKS資料「マンションの長寿命化とヴィンテージ化という考え方」)という。

ジードルング・シラーパルク・ドイツ建築1924年〜1930年(ヴィンテージマンションプロジェクト推進協議会HP)
ジードルング・シラーパルク・ドイツ建築1924年〜1930年
(ヴィンテージマンションプロジェクト推進協議会HP)

 日本では2006年6月に「住生活基本法」が制定され、これまでの住宅の量的拡大政策から良質な住宅ストックの形成に向けて方向転換が図られた。今年4月からは自治体主導の下、一定の条件で修繕を行う場合に、固定資産税を軽減する措置が実施される。福岡市では、「福岡市マンション管理計画認定制度」が22年7月から開始されているほか、冊子「マンション管理の手引き」が管理組合へ配布されるなど、動きが活発になってきた。

 発展途上にある修繕業界において、国や自治体、居住者との架け橋として、マンション長寿命化を目指すMKSの活動に引き続き注目したい。

MKS九州支部10周年祝賀会にて
(左から)福岡県副知事・生嶋亮介氏、
MKS九州地区理事・穂坂博史氏、福岡市副市長・光山裕朗氏、
福岡市住宅都市局住宅部長・大道寺崇氏

ヴィンテージマンションを増やしたい

MKS九州支部長 尾関 正敏 氏

 民間工事を主体とするMKSは、公共工事とは異なり、入札制度や審査基準が整っていないため、会員への法令改定の周知徹底などコンプライアンス強化に努め、信頼できる業界として「マンション改修業」を確立することが協会の最大の役割だと思っています。また、仕様書や工法のルールを確立させ、一定の品質を保ったものをお客さまに提供できるよう技能向上を図っています。

 職人の雇用においては、会員企業だけでなく下請業者にも社会保険加入の確認を行うとともに、職人自身のレベルアップを図るための教育に力を注いでいます。新築工事と違い、改修工事では建物内に居住者が暮らしている状況での施工となる場合が多くあります。そのため、出入りする職人には居住者に不信感を与えないような配慮も必要になりますので、マンション入場に特化した教育用DVDをつくっています。このDVDは外国人労働者にも学んでもらうため5カ国語に対応しています。

 研修の一環として、「マンション改修施工管理技術者」という資格の取得を促しています。試験は年に1度実施しており、現場管理に必要な知識と技術が水準を満たしているかを審査・認定することで、発注者や協力会社への対応力の向上を目指しています。国交省が進める建設キャリアアップシステム(CCUS)にも保有資格として登録できます。改修工事の担い手不足問題の解決にもつながると思いますので、国家資格化を目指しています。

 また、改修工事の基本となる躯体補修、塗装改修、シーリング改修、防水改修の4種類を選定した「多能工育成プログラム」を実施しています。1人が数種類の工事を手がけることで、現場管理者は受け入れ処理や工程管理の省力化が可能になり、職人は同じ現場で一日作業ができるため、手待ち時間の削減が実現し、全体的に作業効率が向上することを期待しています。

 長寿命化マンションを高い技術力で増やしていくことは、魅力的な仕事だと思います。ローマには2000年前につくられた建築物が今も存在するように、歴史の価値は財産になります。日本でも、100年経っても存在するランドマークのようなヴィンテージマンションが増えていくよう、MKSは一丸となって、魅力あるマンション計画修繕業界をつくっていきます。

(了)

【松本 悠子】


<INFORMATION>
(一社)マンション計画修繕施工協会
(略称:MKS)
九州支部:福岡市南区寺塚1-10-3
     ((株)ダイニチ内)
東京本部:東京都港区西新橋2-18-2
     新橋NKKビル2F
URL :https://www.mks-as.net

(前)

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