2024年05月12日( 日 )

九州の観光産業を考える(7)天神ビッグバン・バックヤードツアー

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高層ビルは呼吸し、光合成する巨樹に

 天神ビッグバンによって、高さ制限や容積率の緩和優遇を受ける開発計画はおよそ出そろった。天神BBB(ビッグバンボーナス)認定ビルの公表概要を見ると、そのほとんどで省エネや環境負荷低減、防災への対応がうかがえる。2026~30年にかけて、天神の街は大きく変容していく。

天神ビジネスセンター
 共用部に帰宅困難者が滞留可能な一時受入スペースや防災備蓄倉庫を整備し天神地区の防災拠点となる役割/積層ゴムとオイルダンパーの併用による免震システム/災害時のライフライン寸断に備え72時間対応のデュアルフューエル非常用発電機設置/BCP対応の高機能オフィス

(仮称)ヒューリック福岡ビル建替計画
 オフィスへの自然換気システム導入/九州産木材を利用しCO2固定化による環境負荷低減/建物屋上に太陽光発電設備設置/国際イニシアティブのRE100に加盟しグループ会社全体の使用電力を2024年までに非FIT太陽光発電設備による100%再生可能エネルギー化

福岡大名ガーデンシティ
 約3,000m2の広場は防災拠点としての活用を踏まえ設備などを確保

福ビル街区建替プロジェクト/天神一丁目11番街区開発プロジェクト
 ダブルスキンや屋外テラスによる自然換気システム導入/地域熱供給システム導入/CO2除去デシカント空調機採用

(仮称)天神一丁目北14番街区ビル
 自然換気システムの導入/照明や空調設備等の高効率機器の採用や外壁の遮熱性向上等により国の誘導基準を超える省エネ性能/広範囲の壁面緑化や常緑並木の形成によりヒートアイランドの抑制

舞台裏の技術、楽屋の内情

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アクロス福岡
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人気の学習プログラムとなる

 何やら凄そうな仕掛けのラインナップだが、実のところそれらがどんな塩梅に配され、運用されていくのか思い描きにくい。入居テナントを募る営業ツールに自ビルの優位性やSDGs追求性をアピールし、満床を達成するのは重要だが、市民をはじめ一般の人々へその技術力、効力を誇示し、まちづくり、地球保全へいかに貢献しているかを知ってもらうのも有益だろう。

 そこで提案したいのが、「バックヤードツアー」だ。たとえば大型のクルーズ船では、ツアー日程の乗船初日にアクティビティプログラムとして、船内の主な機能を案内役にともなわれ見て回るツアーがある。非常時への備えに加え、充実した船内施設を有効に楽しんでもらおうとする自信満々の意図だが、厨房等の裏方のファシリティを業務の邪魔にならぬよう垣間見せてもいく。表舞台の華やかなサービスの裏側に、念入りな準備や十全の装備があること、あるいは日々の保守管理を知らせることで、船の信頼を勝ち得、長く続く支持を取り付ける狙いがある。オフィスやホテル、各種商業施設や文化施設を内包する巨大なビルも、入居者や訪問利用客からの支持を受けなくてはならないのは同様で、陸に立ち上がった巨艦と思えばわかりやすいだろう。

顧客サービスと対外プロモーション

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阿蘇神社楼門
再建期間中も従前の姿を原寸大で伝え
現場を垣間見せて参拝者をつなぐ

 バックヤードツアーは、一種の産業ツーリズムである。日々平静を装い悠然と構えている巨大ビルが、水面をたおやかに泳ぐ白鳥のごとく見えないところで懸命に足をかいている様子に接することは、心情に響く。環境を保全すべく稼働している施設をサービス提供側の視点から丁寧になぞっていく行程は、SDGsの“イミ消費”に価値を求める向きには福音であり、そうした方々の肯定的な声がビルの社会貢献性に加勢し、利用へと広がっていく。

 天神の新しいビル群は国際ビジネス都市、国際観光都市を目指し、オフィス誘致において都市間で競い合う。東京や大阪ばかりではない。東アジア圏域のハブ機能を意識しての覇権争いだ。意識の高い欧米企業では、出先のオフィスにもSDGsへの取り組み姿勢を求めているように伝えられるが、営業ツールに多言語で綴られる売り文句の他に、バックヤードツアーで培われる市民の支持表明は、オフィス選択の大きな視点となるのではないだろうか。

 実施に当たってはヘルメットなど適度な緊張をもたらす装備を着用させ、通常のツアーとは異なる特別なプログラムであることを強く意識させることが効果的だ。そして仕上げにVIPラウンジあたりで茶菓をふるまい、うんちくネタ提供の講話などあれば、それは硬軟織り交ぜた優待セットとして得難い印象を与えることとなり、参加者のより強固な支持を取り付けることへつながる。

 工場見学とは似て非なるバックヤードツアーを、デベロッパーは積極的に検討してみてはどうだろうか。通常は未公開のエリアへの立ち入りは、分野と専門性を勘案すれば、学童向けの教育プログラムにすることも可能だ。

 建設途上にこうした企画を設けることも有効で、竣工後にはお目にかかれないシーンに遭遇する貴重な機会として、市民へ訴えかけることができる。天神ビッグバンや博多コネクティッドが竣工ラッシュを迎えるまでに、まちづくりの良き理解者を増やしてはどうだろうか。


<プロフィール>
國谷 恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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