熊本23年地価公示、TSMC進出で「過去例を見ない現象」（前）

牽引した3つの自治体

　前号（vol.59）では福岡県の公示地価について、上昇率が高かった地点を中心に見ていったが、今回はTSMC進出で注目を集める熊本県についても同様に見ていきたい。

　今年の熊本の公示地価を語るうえで外せないのは、やはり「TSMC」だろう。TSMCの新工場が建設中の菊陽町は、熊本市のベッドタウンとして知られ、ゆめタウン開業により町西端の「光の森」周辺の地価は上昇傾向で推移してきた。TSMCを筆頭とする半導体関連工場の立地により、昨年の地価調査で30％超の上昇となったことが話題となったが、それを踏襲するように、今回の公示地価も前年から大幅に上昇。県全体で見ると、あきらかにTSMC新工場のお膝元である菊陽町・大津町・合志市が地価上昇を牽引していることがわかった。

　熊本都市圏の環状道路である通称・東バイパス（国道57号）沿線は、運送業を中心に事業所などの進出需要が増加しており、地価上昇幅が拡大している。東バイパスは、熊本市新南部から熊本市近見町に至る延長 9.7km のバイパスだが、九州自動車道・熊本ICを超えて菊陽町の中心部を通る菊陽バイパス（国道57号）も含めて、地元では「東バイパス」と呼ばれており、今回は総称して東バイパスとする。

　菊陽町・大津町・合志市については、半導体関連企業の進出が相次ぎ、物流・倉庫用地、賃貸アパート用地、ホテル用地、さらに商業用地の需要が激増。幹線道路やJR豊肥本線の沿線エリアは高い地価上昇となっている。

「来年はさらに上昇」

　TSMCの進出効果で大きく上昇した今年の公示地価について、（株）九州不動産鑑定所の取締役で不動産鑑定士の笹川鼓氏は、次のように話す。「熊本市に近く、交通インフラが整っている菊陽町、大津町、合志市はそれぞれ5年で5％程度の人口増となっているところ。菊陽町西側の光の森周辺は、住宅地として人気のエリアだったが、TSMC進出が追い風となって、公示地価が急上昇した。公示地価はそれでも『保守的』とされており、来年はさらに上昇する可能性が高い」。

　県全体では3％弱の人口減となっているなか、人口増を続ける3自治体の特徴と、一部の土地の取引価格が異常に高騰するなかでの地価評価の難しさを語ってくれた。3自治体の近年の地価公示および地価調査の状況は次項の通りだ。ロンツグループは不動産鑑定業務のほか、債権管理回収業（サービサー）、不動産開発、不動産売買、さらに企業再生からホテル運営まで手がける不動産トータルソリューショングループ。グループ全体を統括する立場の笹川氏も、主力の不動産鑑定では9年にわたって菊陽町・大津町・合志市エリアを担当している。

　標準宅地評価から路線・各筆評価までワンストップで担うロンツグループの強みを生かし、主に固定資産税評価額の鑑定評価に携わっているというが、「この2年は過去に例を見ない現象が続いている」（笹川氏）という。もちろんTSMCの波及効果を指すのだが、「本来は法的規制が厳しく、農地以外の利用が難しい純粋な農地の評価が非常に難しくなった」と続けた。というのも、市街化調整区域でも一定の条件を満たせば建物の建築が可能となる「集落内開発制度」の活用が難しいエリアの農地においても、不動産ブローカーが土地取得に動いているようなのだ。とくに顕著な菊陽町では、半導体関連の新工場進出を見越してか、農家へのアプローチが盛んに行われているという。

（つづく）

【永上　隼人】