2024年05月16日( 木 )

【西公園再整備】期待される近隣エリア(前)

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西公園遠景(資料:福岡県)
西公園遠景(資料:福岡県)

歴史と自然感じる風致公園に

 福岡市中央区に位置する西公園は、博多湾を臨む景勝地であり、春には約1,300本の桜が咲き誇るお花見スポットでもある。人々が集い、憩うのに申し分ない公園のように思えるが、かつて荒津山(別名:荒戸山)と呼ばれていたことからもわかる通り、傾斜が急で険しい地形のため、整備された園路は高低差があり、曲がりくねっている。園内には車道と駐車場が設けられており、車で移動することも可能だが、近年の健康志向の高まりを受け、平時でもウォーキングやトレイルランニングで利用する人が増えており、運転時には注意が必要だ。

 また、西公園は自然景観やそこから生まれる風情の維持が定められた、都市計画法上の「風致地区」にあたる。木々の伐採や土石の採取、建築物の新設・移転、さらには色取の変更に至るまで厳しい制約が課されており、結果として、園内は成長した樹木で鬱蒼とし、せっかくの眺望や周囲の見通しが阻害されている状況だ。

 誰もが安心して利用できる公園への再整備が求められるなか、福岡県は2021年9月、「県営西公園再整備基本計画」を策定。同計画では、桜や紅葉、ツツジといった四季を彩る植物、遣唐使・遣新羅使を見送る場所だった荒戸山時代の名残や、黒田官兵衛(如水)公と息子の長政公を祀る光雲神社などの歴史的資源、そして鵜来見亭(うぐみてい)などの飲食店や遊具など、多彩な既存資産の魅力が来園者に伝わりやすいように、西公園全体を(1)エントランスゾーン、(2)眺望ゾーン、(3)にぎわいゾーン、(4)歴史ゾーン、(5)彩りの谷ゾーン、(6)自然林ゾーンの大きく6つにゾーニング。とくに中央展望広場を含む(3)は「にぎわいの核」と位置付けられており、主に子どもたちや20~40代の子育て世代を意識した、遊び場や飲食店などの充実と、周辺エリアとの調和のとれた空間設計を行う方針が打ち出された。

 先行して、園路の舗装工事やドッグランの整備に向けた張芝工事、樹木の剪定・伐採が進行。基本計画の策定から間もなく2年、西公園は歴史と自然の豊かさを余すことなく体感できる回遊性に優れた風致公園へと、着実に変化を続けている。

注目集める空へ伸びる展望施設

 再整備が進む西公園において、一際注目を集めているのが、新たに設置される展望施設だ。設計業務を委託するにあたり、県は23年2月から公募型プロポーザルを実施。15者から提案書の提出があり、書類審査ならびにプレゼンテーションの結果、最優秀者には(株)エスティ環境設計研究所(福岡市博多区、澁江代表)が選定された。

 同社が提案した展望施設の最大の特徴は、シンプルでありながら目を引く、まるで空へと上っていくような直線のロングアプローチ。再整備が進む周辺エリア―とくににぎわいゾーンとの連続性を踏まえたデザインになっており、来園者の動線としても機能する。西公園の新たなシンボルとしての象徴性も兼ね備えており、選定委員会からも「回遊性の向上と賑わい創出に期待がもてる」として高く評価された。このほか、施設利用者の利便性や安全性、工事関係者や発注者目線に立った、施工性やコストに対する配慮が十分に検討されている点も、好評価につながった。

 設計業務の履行期限は24年3月15日までで予定されているため、実際に工事が始まるのはまだ先になるが、生まれ変わる西公園の“顔”になる施設でもあり、近隣エリアに対する相応の開発誘引効果が期待される。

地形を生かしたランドスケープ
思い出に残る西公園へ

(株)エスティ環境設計研究所
設計部門長 技術士
(建設部門:都市および地方計画)
井口 直 (いのくち・すなお)氏

計画策定を通じて得た西公園への思い

井口 直 氏

    ──今回の西公園における展望施設の設計業務に挑戦された経緯について、お聞かせください。

 井口 今から2年ほど前に、福岡県主導の「県営西公園再整備基本計画」の策定に携わったことが、挑戦への1つのきっかけになったと思います。実をいうと私自身は初め、展望施設の新設に消極的だったんです。誘客効果を発揮するのは最初だけで、長期的に賑わいを維持するのは難しいのではないかと考えていたからです。

 しかし、計画策定にともない地元の皆さんの意見を集約していくなかで、歴史的背景を含め、西公園における展望台の象徴性を知ることができました。そこからは展望施設の新設に対する考え方も変わり、今回の設計業務の公募が始まった際には、展望台への思いに直に触れたからこそ、やるんだったら“自分の手でこれまでになかったようなものを”提案したいと思いました。

 ──現在、中央展望台は成長した樹木の影響などもあり、必ずしも見晴らしが良いとはいえず、新しい展望施設への期待感があります。

 井口 展望台からの眺望もですが、地形が複雑であるため、周囲に何があるのかという位置関係の把握もしにくい状況にあり、来園者に西公園の魅力を十分伝えきれていないと感じました。新しい展望施設が目印になることで、今後、特色に合わせて区分けされる各エリアへの回遊性も高めていきたいと考えています。

大胆なデザイン 注目集める展望施設

 ──県が公表した展望施設のイメージ画像を見ましたが、木製の長い橋のような階段で、かなりインパクトのあるデザインだと感じます。

展望施設イメージ
(※今後の協議により変更の可能性アリ)

    井口 山の頂上にポンと置くように展望台を設置するのではなく、西公園の地形との一体感があり、来園者が園内を散策するなかで自然と歩み入っていけるような、動線を意識したデザインになっています。また、山頂からの景色をより楽しめるよう高さをもたせたうえで、屋根もあえて設けないことで、解放感と眺望を確保しています。夏など日差しの強い日には、展望台の下にある山頂部の広場で、木漏れ日に包まれながら休憩し、自然を楽しんでもらえればと考えています。このように、展望施設と下部の広場を一体的に捉えた空間設計も特徴です。全長90m程度のロングアプローチのなかで、階段を一歩登るごとにゆっくりと移り変わっていく、ここでしかできない風景体験を楽しんでいただけたら嬉しいです。

 再整備の基本計画策定からの経緯もあり、展望施設のデザインにこだわりをもって挑んだ仕事になりました。同年代を中心に設計チームを編成することで、忌憚のない意見を出し合える環境を整え、何度も議論を重ねました。結果として、類似例の見当たらない展望施設のデザインを打ち出すことができ、評価を受けたことは、非常に嬉しく思っています。

 ──最後に、西公園の再整備には、どのような効果を期待されますか。

 井口 今後、西公園では民間活力による飲食施設などの導入も計画されています。たとえばそのお店を貸し切って結婚式ができれば、展望施設も合わせて活用できるかもしれません。一直線に登っていく展望施設の階段、その両脇に立つ参列者に迎えられながら、階段中央を一歩ずつ新郎新婦が上っていき、頂上で誓いを立てるといった演出も可能です。結婚式というのは一生の思い出に残るものですが、その貴重な思い出の舞台として選びたくなるような、魅力ある空間にしていきたいと思っています。これから県とも協議を重ねていくなかで、変更点も出てくるかと思いますが、老若男女問わず、西公園を多くの人で賑わう公園にしていければと思っています。

(つづく)

【代 源太朗】

(後)

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