2024年05月15日( 水 )

【西公園再整備】期待される近隣エリア(後)

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波及効果でブランド向上なるか

 近年、西公園というエリア名が前面に押し出された共同住宅の開発は少ない。確認できたなかで最も新しかったのは、21年11月竣工の賃貸マンション「Villaggio alto西公園」(S造・地上4階建、ワンルーム外10戸)だった。

 西公園(南側入口)は福岡市地下鉄空港線・大濠公園駅から徒歩11分程度であり、大濠公園と地続きの中心市街地である赤坂や天神エリアへも徒歩で十分移動可能な場所にある。今回の再整備を契機として、職住近接エリアとして再度注目される可能性は高い。そしてそれは、西公園近隣エリアにも同じことがいえる。

 かつて荒戸山と呼ばれた西公園から、大濠公園方面へ徒歩5分程度の場所にある荒戸エリア。博多港に沿って、博多区千鳥橋交差点~中央区西公園下交差点までを結ぶ那の津通り沿いであり、車での移動もしやすい。また、福岡大学附属若葉高等学校や福岡美容専門学校(通称:フクビ)を擁する文教地区としての側面もあり、若者向けのお洒落なカフェや飲食店が立ち並ぶ。そんな荒戸1丁目では、三井不動産レジデンシャル(株)九州支店による「(仮称)福岡市中央区荒戸一丁目計画」が進行中。建築物の概要は、RC造・地上14階建、ワンルーム外39戸の延床面積2,778.81m2。設計者は(株)エヌプラスアーキテクトデザインオフィスで、23年6月ごろの着工予定となっている。

荒戸一丁目計画
荒戸一丁目計画

 唐人町寄りの荒戸3丁目では、大和ハウス工業(株)が「(仮称)中央区荒戸三丁目計画」を進めている。建築物の概要は、RC造・地上13階建、ワンルーム外23戸の延床面積3,878.97m2。こちらも設計者は(株)エヌプラスアーキテクトデザインオフィスで、23年7月ごろの着工を予定している。

 荒戸から那の津通り沿いに博多方面へと進んだ先にある港エリアでは、福岡造船(株)による研掃工場(S造・地上1階建、延床面積490m2)の計画が進むが、マンション開発に関しては現状、表立った動きは見受けられない。一方で、国指定の特定第三種漁港(※)の博多漁港を擁する同エリアは、その名が示す通り、海辺のまちといった風情漂う街並みが印象的でもある。憩いの場としてかもめ広場緑地があり、周囲には海鮮や中華などの飲食店もある。那の津通り沿いに出て長浜方面に歩いていけば、屋台が軒を連ねている。

※特定第三種漁港…全国に点在する漁港のうち、水産業を振興するうえでとくに重要であると政令に基づき定められたもので、現在全国で13港が指定されている。略称は特三。

 住む場所としてのポテンシャルは相応に高く、もしかしたらすでに開発が進んでいる荒戸以上に、将来の発展に余地を残したエリアといえるのかもしれない。その先発隊として注目されているのが、免震偽装のタワマンとして全国的に取り沙汰された「カスタリア大濠ベイタワー」(以下、ベイタワー)の跡地活用だ。

 ベイタワーは地上30階建の賃貸用タワーマンションで、06年の竣工当時は九州最大級のタワーマンションとして話題を呼んだ。しかし、免震構造に使用された東洋ゴム工業(現・TOYO TIRE(株))の免震ゴムに、データ改竄が行われていたことが発覚。TOYO TIREが同マンションを37.4億円で買い取ったが、その後大和ハウス工業が取得し、動向が注目されている。現在、(株)三和興業(福岡市東区)によって解体工事が進められており、問題なく進めば、25年7月末に解体工事完了となる。徒歩5分の場所にはショッピングセンターのキテラタウン福岡長浜もあり、生活利便性も高いことから、同規模のマンション開発が計画されたとしても、何ら不思議ではないだろう。

 荒戸、港エリアに先んじて、早くも複数棟のマンション開発が始まっている大手門エリア。都心のオアシスである大濠公園と、隣接する舞鶴公園との近さが強みのエリアだ。もちろん荒戸も両公園に近いが、赤坂、天神などの都心部への近さでは大手門に分があり、“都心部の利便性を享受”という謳い文句を付加しやすい。

 福岡市博多区石堂大橋交差点から中央区荒戸交差点までを結ぶ、市内有数の広さを誇る昭和通り沿いの大手門2丁目のコインパーキングでは、三菱地所レジデンス(株)による「(仮称)福岡市中央区大手門2丁目計画」が進む。建築物の概要は、RC造・地上19階・地下1階建で、ワンルーム外66戸の延床面積6,906.52m2。設計を(株)Gデザインアソシエイツが担当し、24年2月ごろの着工を予定している。

 そこから大濠公園方面に進んだ先の大手門1丁目では、2棟のマンション開発が進行中。1つは、サムティ(株)による「(仮称)サムティ中央区大手門1丁目」。建築物の概要は、RC造・地上15階建、ワンルーム外56戸の延床面積4,064.11m2。設計はAya建築設計で、着工は23年11月ごろを予定している。一見窮屈そうに見えるが、隣接する黒い建物は100円クレープ「パオクレープミルク」で知られる(株)ミルクワークスの本社・工場。同社は本社・工場を新設・移転することが決まっているため、跡地と合わせた計画になるものと考えられる。

 もう1つは、西部ガス都市開発(株)による「(仮称)大手門1丁目計画」。建築物の概要は、RC造・地上10階建、ワンルーム36戸の延床面積1,287.69m2。設計をスターツCAM(株)大阪支店が担当し、着工は23年8月ごろを予定している。

公園間エリアが盛況を博すのか

 本誌でもたびたび紹介してきたが、福岡県と福岡市は共同で、大濠公園と舞鶴公園を一体的に整備するセントラルパーク構想を進めている。つまり、これまで紹介してきた荒戸、港、大手門の各エリアは、将来的にセントラルパークと再整備が進む西公園との間に内包されるエリアともいえる。公園間の動線によっては、交流人口の増加とそれにともなう商機拡大、民間投資の活性化、そして、生活拠点としての需要増と受け皿となる住まいの整備が、間断なく進むであろうことは想像に難くない。

 そして、未来のセントラルパークと西公園をつなぐための新たな動線設計は考慮されているはずだ。結果として、セントラルパーク構想・基本計画と県営西公園再整備基本計画のどちらにも、エスティ環境設計研究所が携わることになったからだ。この偶然を生かすためにも、西公園、そして大濠公園周辺エリアが、福岡における公園から始まるまちづくりのモデルケースエリアとなることを期待したい。

(了)

【代 源太朗】

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