2024年05月14日( 火 )

タワマンという住宅政策を考える【前編】(4)

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    タワーマンション(タワマン)は、一般に20階建以上の鉄筋コンクリート造の集合住宅のことをいう。垂直に空高く伸び、すばらしい眺望を手に入れることができるソレは、日本人を夢中にさせる。タワマンは日本人の新築信仰と、狭い国土によって生み出された現代における「バベルの塔」なのだろうか。

 今回、「新しいグランドデザインの建て付け」第3弾として、ハード政策を取り上げてみたい。環境に負荷をかける建築という構造物と、我々はどう付き合い、使って(もしくはつくって)いけばいいのだろうか。とりわけ“住む”という行為において、「垂直方向=タワマンの風景」と、「水平方向=部屋の間取り」から影響される課題について、考えてみたいと思う。

タワマンは人を幸せにするのか

 日本の住宅政策は、「住の問題」は個人と、その依頼を受けて工事する民間企業に委ねられた。買い手に一定程度の知識、空間影響に対する倫理・道徳感がある…。売り手に社会的意義や推奨できる提案、啓蒙的な選択肢の準備がある…。世間や社会にそれを見張る監視的な抑止力がある…。これら3者が住宅産業という商業のなかで、有機的に働いているだろうか。

 タワマンとは、人間の業を象徴したバベルの塔のようなものではないだろうか。人々は高額のローンを組んでタワマン住戸を買い、新しく家具や家電製品を購入して引っ越してくる。分譲したデベロッパーは多大なる利益を上げて業績を伸ばす。建設したゼネコンは建築費をしっかり回収できる。耐久消費財は売れ、金融機関は安定収益を生む住宅ローンを提供する。そして、それらはGDPに反映されていく…。

 金融主導経済とIT化の時代に突入した21世紀のあるころから、事業に関わる人たちのメンタリティが、株価至上主義に陥っていくような風潮になった。開発業者は「買うやつがいるのだから、今売ればいい」という「売り逃げの論理」で疾走する。彼らは単純に「儲かるから」という経済原理に基づいて、タワマンをつくって売っている。かつては経済人のメンタリティに、人生の売り逃げなどという発想はなかったはずだが…。グランドデザイン無き構想のなかでは必然的に、都市が民間の多様な思想でカオスへと向かっていく。民間主導で経済優先の空間形態を加速させ、華やかな暮らしぶりを誇張した広告で、日本人を夢中にさせていく。高さへの満足は常に満たされることはなく、技術さえ追随すれば、おそらくどこまでも高く積み上がっていくだろう。人間の飽くなき探求心と成長を求め続ける経済至上主義の進む道である。このような住形態のタワマンは、購入した人を本当に幸せにしているのだろうか。

 日本において、量としての住宅数は十分に足りている。正確には足りているというより、余っている。余っている部屋があるのにつくり続ける社会的意義とは何なのか、つくった後の保全、成長だけを追い求めるのではなく持続可能な都市風景に向き合う…。

 不動産業や住宅産業、建設業、あるいは国交省、厚労省―住宅に関わる人たちが士気を高め、健やかな環境空間を創造できるリーダーとともに新たなグランドデザインを描いていかなければならない。日本人はそろそろ、それを考え始めなければならない時期にきているのではないだろうか。

高層マンションは人を幸せにするのか
青の世界 © yuranii
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

【提案】セカンドグランド構想
「第2の地上を開発する」

公開空地は街のためかビルのためか。
公開空地は街のためかビルのためか。

 公開空地という手法がある。敷地内に公開空地を設けることによって、建設される建築物の容積率や、各種高さ制限(道路斜線、隣地斜線、北側斜線、絶対高さ)を緩和する「総合設計制度」だ。

 場所によっては歩道が拡張されたようなつくりになっていて、オープンスペースとして自由に通行できる開放された地帯である。タワマンを建てるにあたっても、エントランス周辺に空き地をつくって高層化する方法が取られるが、道路からセットバックして建設するため、そこだけ突如平面が現れる構成だ。ある意味、街並みの連続性が失われるともとれる。殺風景な植栽帯が設けられたり、車止めになる縁石、申し訳程度の植木が設置される程度の、空虚な空き地である。

 その空地、本当に必要だろうか。たとえばこれを、「セカンドグランド構想」に切り替えてはどうだろうか。通りに対して、賑わいをにじみ出す仕掛けづくりだ。その場所にショップや花屋、コーヒースタンドやバル、レストランなどを、通りに対して2~3階建の低層で開店する。通常、マンションの1階は居住者専用のエントランスなどで埋められていて、都市を歩く歩行者からすると、何ら機能性のない場所だ。住宅街ならまだしも、繁華街の目抜き通りでそのたたずまいは、都市の魅力を半減させる。

 たとえば、そのレストランの上部、つまり屋上部分がセカンドグランド(第2の地上)になる。ストリートに対し賑わいをつくると同時に、高層マンションは従来通り、通りからセットバックしているので、中空の閉塞感は和らげる。タワマン3階部分とレストラン屋上がつながるため、住居者にとってはセカンドグランド部分が憩いの大地となるわけだ。無人地帯だったエントランスへの進入通路は、店舗横に専用ゲートとして設け、店舗を抜けてエントランスへ帰っていく。レストラン内の室内窓からはその豪華なエントランスの様子が垣間見えるぐらいあってもいいかもしれない。天上人からすれば、地上に降りる手前に居住者専用の共用空地が現れ、1階に下りればレストランに通じているといった構成だ。

【提案】セカンドグランド構想~第2の地上を開発する
【提案】セカンドグランド構想~第2の地上を開発する

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 今回、垂直に伸びる空間の代名詞として「タワマン」を例に挙げてきたが、次号では水平に広がる空間の課題と可能性も考えてみたい。現在の建築学は「機械構造学」が背景にあり、そこには住まう人間のことが熟慮されていない。「どういう動線が、どういう人間の心を形成していくか」ということに対する考えがない。住む人が不在なのだ。この部分に大きく関わりをもつのが、生活動線の根幹である「部屋の間取り」である。

時代はリノベーションのフェーズに入っている
時代はリノベーションのフェーズに入っている

(次号へ続く)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

【中編】

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