2024年05月05日( 日 )

G空間EXPO2023、人流データの利活用進む

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 産学官連携による最新のG空間情報技術の活用推進や普及啓発を図るイベント「G空間EXPO2023」が11月7日と8日、東京都立産業貿易センター浜松町館で開催された。8日には、「人流データの利活用手法、ユースケースの創出」をテーマに、秋山祐樹氏(東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科准教授)がコーディネーターを務め、武林雅衛氏(国土交通省政策統括官付情報活用推進課課長補佐)、宮澤聡氏(LocationMind(株)Product Maneger,xPop Div)、陣内寛大氏((株)GEOTRA代表取締役社長CEO)の3者がパネリストとして出席し、パネルディスカッションを開催した。

地域政策の推進にも

2_コーディネーターをつとめた秋山祐樹氏(東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科准教授)
コーディネーターをつとめた秋山祐樹氏
(東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科
准教授)

    まず、国交省の武林氏が人流データの取り組みについて解説した。人流データとは、特定の場所・時間に何人いるかを表すデータで、センサーやカメラ、GPS、携帯機器などから取得するほか、年齢や性別などの属性情報も含まれており、まちづくりや防災、観光、商工、福祉などのさまざまな分野での活用が期待されている。民間企業でも人流データをマーケティングに活用する事例は増えているが、公共での利用はこれからだ。具体的な活用事例は、「歩行者数の把握によるイベントでの誘導」「災害時の避難所の混雑状況の把握・分散化」「主要施設における密集状況の把握」などがある。人流データは客観的な数字を取得できることで、エビデンスに基づく政策立案が実現し、地域政策の推進や新たなサービスの創出に活用につながることが期待されている。

武林雅衛氏(国土交通省政策統括官付情報活用推進課課長補佐)
武林雅衛氏
(国土交通省政策統括官付
情報活用推進課課長補佐)

    国交省では、2018年度から人流に関する事業を開始。まず、さいたま新都心エリアでの人流データを計測した。続いて20年度には、大手町・丸の内・有楽町(大丸有)での人流データを計測し、21年度には「全国6地域での人流データを活用したモデル事業によるユースケース発掘」「地域課題解決のための人流データ利活用の手引きの作成」の事業を展開した。

 また、22年度に「人流データの統一的なフォーマットの提案・可視化ツール」を試作公開し、23年度には「土地・不動産分野などにおける人流データ活用拡大」を検討している。具体的にはさいたま市、東京都東村山市、鳥取市で展開中だが、「不動産価値にどれだけ人流データが意味をもつかは、地域によってさまざまだと思う。また、人流がどれだけ街を活性化し、地域の価値を向上させるのか、さらには住みやすさはどう変わるかなど調査を続け、いろいろなアプローチを試みる」(武林氏)と話す。

来店者の属性ニーズ

宮澤聡氏(LocationMind㈱Product-Maneger,xPop-Div)
宮澤聡氏
(LocationMind(株)
Product Maneger,xPop Div)

    民間企業2社の取り組みも紹介された。

 まずLocationMindは、2019年に設立され、空間情報工学の分野で第一線の研究を行ってきた東京大学の柴崎亮介研究室発の技術ベンチャー。同社の位置情報AI事業は、(株)NTTドコモや日野自動車(株)とのパートナーシップを締結しているほか、商業施設では基本的な物件情報に加えて、人流データを用いて物件価値の裏付けを行っている。とくに地域間競争が激しい大型の商業施設では、来店者の生活パターンや嗜好の分析に対する要望は高い。

 同社の宮澤氏は、「この商業施設に、どこから、どの交通手段で来店したのか。次にリピーター客はどれほど存在するかを分析し、客層の主な居住地を推定し、ライバル店と比較・分析する。最終的に、さまざまなデータを基に施策の立案検証へとつなげる」と話した。

再開発で活用も

_陣内寛大氏(㈱GEOTRA代表取締役社長CEO)
陣内寛大氏
((株)GEOTRA代表取締役社長CEO)

    次に三井物産(株)とKDDI(株)の合弁企業・GEOTRAの陣内氏が登壇。陣内氏は、行政、地方自治体、電力会社、不動産デベロッパーやゼネコンなどをユーザーとする、人流データを活用した位置情報データを紹介した。「KDDIが保有しているGPS位置情報」を同社が保有しているプライバシー技術を掛け合わせることで、従来データよりも細かく分析するというもので、再開発などで利用されているという。

 再開発では、まちに対する需要と供給のギャップをシミュレーションしつつ、さまざまなステークホルダーとの合意を得ながら開発を推進する必要がある。そこで議論の土台のために、人流データを活用するケースが非常に増えているという。また、橋梁などインフラの長寿命化も重要となる。

 「仮にある地域に1,000橋あった場合、どの序列でメンテナンスを実施するかは、難しい意思決定。全橋の経済損失を含めてシミュレーションしたうえで、メンテナンス費用の配分を提案する。これからまちをコンパクト化する局面で、橋や道路を住民がどう利用しているかをシミュレーションし、効率的な街を維持管理する視点は大切になる」(陣内氏)。

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 利活用が進む人流データだが、これからはどう進展していくのか──。武林氏は、「これからは3次元の活用が肝要」と述べた。また、人口減少社会で施設の維持を続けるか否かの判断は当然求められ、場合によってはインフラの撤退戦もあり得るが、「そこで人流データを使えるのではないか」とも続けた。また、人流データは発展途上の分野であるため、「知恵を出した者やビジネスにつなげた者が勝ち、今が知恵の出しどころである」と常にアンテナを張ることの重要性を述べた。

 最後に、コーディネーターの秋山氏は、「人流データをインフラ化とすることが大切。これからデータを提供する側と顧客側が連携し、より魅力的なユースケースをつくる取り組みが重要になる。このシンポジウムを機会に人流データの利活用を進め、国の政策をさらに強力に進めることを期待しており、大学でも今後の動きに大いに関与したい」とまとめた。

【長井 雄一朗】

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