2024年04月28日( 日 )

九州の観光産業を考える(14)万博は仮設遊園地を脱却するか(前)

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宴の後の虚無感

日々驚嘆のWEB世界に
リアル見本市は同居できるのか

    2025年に開催される大阪万博の入場料が公表されている。基本料金は大人7,500円、小人1,800円。テレビのワイドショー的には、その価格設定が高いか安いかが焦点化されたが、肝心なのは万国博覧会という“大怪獣”が、現代日本に要るのかどうか。海外パビリオン建設の進捗が芳しくないのも、何やら暗示的だ。

 成熟社会という、耳触りは良いが実態は下げ潮ムードの世相。SDGsが接頭語として我々の諸活動を規定し始めてもいる世情は、カラフルなフラッグがはためいた冷房フル回転の博覧会場へ能天気に繰り出し、はしゃげる空気感ではない。ウェブを通して情報のみならず体験すら更新される日常、コロナ禍でリモート業務が市民権を得、大阪の人工島は半年間の演目の後、持続可能な社会像を、希望をもって形づくる基盤になっていられるのか。

 九州の博覧会を振り返れば、1989年のアジア太平洋博覧会(福岡市/会期約半年/公式発表入場者約820万人)、96年の世界・焱の博覧会(佐賀県有田町など/会期約3カ月/公式発表入場者約255万人)があった。会場跡地の現状は、福岡・百道浜は地方テレビ局の本社ビルなどが立ち並ぶ街区となって「開催テーマ:新しい世界のであいを求めて」を、佐賀・有田では広さばかりが際立つ公園となって「開催テーマ:燃えて未来」を継承体現している?

手段を目的化する短見

    東京ディズニーランドは1983年のオープン初年以降、毎年1,000万人以上の入園者を迎え、我が国のレジャーサービスの水準を引き上げた。その数年後から市制100周年を迎える自治体が全国にあったわけだが(表参照)、テーマパーク人気にあやかろうと津々浦々で博覧会形式の記念イベントが企画開催された。その多くを大手広告代理店が取り仕切り、ナショナルブランドの企業からお付き合いパビリオンの出展を誘導していた。

 広告代理店もディスプレイ会社も、ディズニーランドのようなアトラクションをつくりたがった。しかし、予算も経験も乏しい。何より構想力と展開センスが足りなかった。たとえば、米国ディズニーランドの人気アトラクションIt's a small worldは、1964年のニューヨーク万博へ飲料メーカーがスポンサーとなって出展されたパビリオンを移設したものなのだが、ハリウッド映画で蓄積されたディズニー社のようなノウハウは、日本が一朝一夕に模倣できるものではなかった。

 東京ディズニーランドで世界基準のエンターテインメントに触れた人たちが増えるにつれ、日本の乱造博覧会は、背伸びしようとすればするほど物悲しい使い回しに見えていった。入場者数も、主催者行政の懸命の動員や水増しカウントで達成させることが問題視された。

 博覧会という手段が目的になってしまっていた。規模が大きければ大きいほど、それが幕を閉じた後に地域へレガシーとして残すハードやソフトが期待されるはずなのに、博覧会イベントをやり遂げることに翻弄され、全エネルギーを放出し切ってしまった事例のなんと多くみられたことか──。

 本来、将来ビジョンがあったうえで、その端緒としてこうしたイベントがあるはずが、手段と目的がいつの間にかひっくり返っていた。換言すれば、目指す社会ビジョンにそぐわないさまざまな規制や地域のすったもんだを取っ払って、次へつなぐのがこの種の博覧会開催の意義であり、目的である。

 大阪万博2025では、空飛ぶ車を社会インフラにするアピールをしているようにうかがえるが、隣地に展開しようとするカジノリゾートから、ルーレットのチップを大量換金した顧客を、プライベートジェット係留の関空へと安全に送り届ける実証実験だと言い切ってほしいくらいだ。

(つづく)


<プロフィール>
國谷 恵太
(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。

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