九州の観光産業を考える(14)万博は仮設遊園地を脱却するか(後)
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万博というかつての非日常
巨大プロジェクトに頼らずとも、ちょっとした非日常を挟みこむのは常套化している。ショッピングセンター、各種展示施設、イベント。ウェブの世界は非日常だらけで、それが日常となっている。寓話「不思議の国のアリス」で、マッドハッターは「今日はなんでもない日」を祝うのだが、非日常じゃない日があること自体が非日常だというシニカルな世評風刺が、我が国ではもはや現実化している。
すでに非日常が当たり前の現代日本社会に、あえて万博というかつての非日常が『いのち輝く未来社会のデザイン』のテーマの下、再登場しようとしている。新たな博覧会像を提唱するだろうが、囲い込んだ会場空間で入場料を取り、入場者の多さを評価指標とする古式ゆかしい構図を採る。そこはUSJより『Connecting Lives』なのか?海遊館のジンベエザメより『Saving Lives』なのか?なんば新世界より『Empowering Lives』なのか?
はたして大阪の「IR夢洲」は、パラレルで進むツインの巨大事業をどう成り立たせるのだろう。生身の大博覧会とカジノリゾートが、我が国に求められているコンテンツなのかは判然としない。
九州各地へテレポート
地球人口を養うには、エネルギー源や食糧生産が臨界点に達しそうだ。紛争勃発や国際情勢における火種の不穏なくすぶりが、その囲い込みに拍車をかける。気候変動による自然災害の拡大や常態化、被害甚大化は国境を越えて大いに危惧される。大阪万博の開催テーマは、世界へ希望を唱えもたらすというより、身辺の実情から眼をそらした小奇麗な掛け声として、時代の刹那に封じ込められてしまうのではないかとさえ懸念する。国を挙げての大プロモーションで、我が国民は視野狭窄となり、ひととき付き合ってくれるかもしれないが、観光行動的には夢洲、舞洲、咲洲のリンケージを少しでも底堅くするものであってほしい。
出展パビリオンが誇示する最先端の技術や情報は、大方がデジタル端末や映像を用いての体験提供が予想される。モックアップや専用機器に頼るとしても、リモート可能なサテライト会場で事足りる。夢洲会場へわざわざ出掛けずとも、“日常空間”で情報や体験は受け取れる。大阪湾の洲トリオでWキャスト方式もあり得るのではないかと考えてしまう。
そもそも「大阪・関西万博」来場者が九州へ回遊するだろうか。顧客像が重なるようには思えない。人々が集まり楽しめる機会やナラティブは、やはり九州が独自に編み出して発信しなくてはならない。官制の一大博覧会会場を一足飛びに越えて、今や世界各所、世界の技術や人たちと直結できるネットワークの活用を、バイパス道の開拓を、民間の尖がったアイデアで目指しゆく時世だろう。
(了)
<プロフィール>
國谷 恵太(くにたに・けいた)
1955年、鳥取県米子市出身。(株)オリエンタルランドTDL開発本部・地域開発部勤務の後、経営情報誌「月刊レジャー産業資料」の編集を通じ多様な業種業態を見聞。以降、地域振興事業の基本構想立案、博覧会イベントの企画・制作、観光まちづくり系シンクタンク客員研究員、国交省リゾート整備アドバイザー、地域組織マネジメントなどに携わる。日本スポーツかくれんぼ協会代表。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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