2024年04月29日( 月 )

安倍派更迭、アベノミクスはどうなるのか(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は12月18日発刊の第346号「安倍派更迭、アベノミクスはどうなるのか」を紹介する。

財務省路線を警戒視していた安倍元首相、財務省の詭弁

 武者リサーチはかねてから、巨額の財政赤字について財務省や多くのメディア、エコノミストが問題だと指摘している事実こそが針小棒大である、と主張してきた。図表2の日本政府の統合バランスシートをご覧いただきたい。日本の政府の借金は郵政を除いて1514兆円、GDP比258%と世界最大である、と借金の絶対額だけを見て問題視されている。

図表2: 日本政府統合バランスシート

 しかしこの借金のかなりの部分は、反対側に資産をもっている。たとえば日本政府は政策運営に必要ない米国国債を120兆円以上持っているが、これは借金と両建てになっている。年金も国民からの預かり金120兆円に対してGPIFの運用益含めると200兆円規模の資産がある。

 さらに日本の高速道路は有料で安定的に収入が得られる資産であるが、その建設のための借金なども債務に入っている。政府保有の潤沢な資産を差し引いた純借金は571兆円でGDP比100%弱、世界的に見てもそれほど高い水準とはいえない。また日本財政の国債依存度が31.1%で主要国中最悪という財務省の言い分も誇張である(図表3,4参照)。借金(=国債発行額)35.6兆円のうち16.7兆円は借金返済分(国債償還分)それを除く18.9兆円が真の借金で新の国債依存度は19.4%、それの対GDP比は3.4%と世界平均並みである。 

図表3: 2023年度歳出予算(財務省財政関係資料) 図表4: 公債依存度の推移(財務省財政関係資料)

 そもそも日本は家計と企業部門膨大な貯蓄余剰があるので、国が借金をして需要をつくり、辛うじて循環が保たれている。財政の寄与がなければ需要不足で、もっとひどいデフレになっていたであろう。世界に広がっている世界最悪の日本国政府債務という評価は、「従軍慰安婦や徴用工問題」と同様、日本を不当に貶めるものである。この財務省の緊縮財政バイアスに安倍氏は強い警戒感をもっていた(田村秀男、石橋文登「安倍晋三VS財務省」(育鵬社)2023年に詳しい)。その安倍さんの意志を継承している人々の影響力を絶ちたいと財務省は考えているだろう。

 なお世界では最近財政出動に肯定的意見が強まっている。米国は、ジャネット・イエレン財務長官が主唱する高圧経済論(MSSE現代サプライサイドエコノミクス)が実践され、主要国に比し躊躇ない大規模の財政支出が、米国経済の好調さを支えている。他方ドイツは連邦憲法裁判所が「財政赤字をGDP比0.35%以下」という憲法規定をタテに、財政支出を制限した。日本もドイツのようにならないような注意が必要である。政府の財政支出余力をより正しく表す政府利払い費の対GDP比(図表6)は、日本は世界最低水準にあり、むしろさらなる財政支出or減税が適切な情勢といえる。

図表5: 主要国財政収支/GDP比推移 図表6:主要国政府利払い費/GDP比推移

整然と出口に向かう超金融緩和路線

 次に金融政策面では今回の政変でどのような影響が現れるかだが、基本的に大きな変化はないだろう。黒田前日銀総裁は、多方面からの批判に耐えて脱デフレの土台をつくった。黒田氏は最後の2022年12月にYCCの調整(長期金利の上限を0.25%から0.5%にシフト)を打ち出し、明らかに出口への一歩を踏み出した。植田新日銀総裁はYCCの調整をさらに進め長期金利が1%を一定程度超えることを容認し、長期金利はほぼ市場に委ねられるようになった。

 またQE(=バランスシートの膨張)もここ数年750兆円で頭打ちになっている。日本の異次元の金融緩和は事実上半分以上終わっていると言もえる状況である。それにも関わらず市場が暴走しないのは、いざとなったら日銀が出てくるという睨みが利いているからである。2%のインフレ目標達成への展望も開けてきた。ここからは目標を過度に上回るインフレや極端な円安が進行すれば、整然と引き締めることができる。

図表7: 日本の長短金利の推移とYCCの調整

 昨年12月のYCCの修正時期に海外のヘッジファンドが日本国債売り、ドル売りの投機を仕掛けたが、それらは持続せず、マーケットはまったく動揺しなかつた(図表7)。異次元の金融緩和は禁じ手であるから出口には混乱が待っていると想定していたリフレ反対派の目論見はまったく外れた。日銀はこれからも問題なく整然と出口に進み、株式市場はそれを評価していくだろう。 

年末の円急騰は日銀の「慎重な金融緩和解除路線」への追い風

 年末にかけて円が急騰した。①植田総裁の「年末から来年かけて一段とチャレンジングになる」という発言で、12月にも金融政策決定会合で政策変更が行われる、との見方が強まったこと、②12月13日の米国FOMCでインフレ低下、景気減速から、2024年3回の利下げ想定が打ち出されたこと、が理由である。しかしどちらもこれまでの市場の想定を大きく変更するものではない。ポジション調整の口実とされた面がある。

 この円高は慎重に金融緩和解除を進めようとする日銀への追い風になるだろう。ここ数週間に起きた経団連などからの急激な円安に対応すべきとの批判をかわすことができた。むしろ性急な引き締めへの政策転換は望ましくない円高を加速させる恐れがあることが思い知らされた。 

 このように見てくると今回の政変劇は、当面の経済政策運営には大きな影響は与えないだろう。

(了)

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