2024年04月29日( 月 )

【設計士対談】福岡市場の現状(後)

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(株)R.E.D建築設計事務所
代表取締役社長 赤樫 幸治 氏
森戸設計(株)
代表取締役 森戸 大輔 氏

 「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」──福岡ではいつまで旺盛な建設需要が続くのだろうか──。福岡においてマンションなど数々のプロジェクトに関わるR.E.D建築設計事務所の代表・赤樫幸治氏と、組織設計事務所において大規模案件を中心に統括責任者として多数案件を担当してきた森戸設計(株)の代表・森戸大輔氏に、話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉 直)

キャナルイースト解体

 ──福岡市のまちづくりも、これまでのような新築や再開発ばかりではなく、ストック活用を本格化させる必要があることを感じさせられますね。

 赤樫 そういえば、博多区にあるキャナルシティイーストビル(2011年開業、地上5階建)を商業施設とマンションの複合ビルに建て替えることが決まりましたが、これには違和感を覚えています。すでに償却は終了しており、ビッグバンボーナスのような容積率緩和のメリットも期待できるとの判断でしょうが、竣工からわずか10年程度での建替えは、いかがなものかと思います。

森戸大輔 氏
森戸 大輔 氏

    森戸 博多と天神の中間という好立地ですが、入居テナントもとくに特徴がないように思われました。いずれにせよ、市内中心部にはほとんど残されていない比較的大規模な再開発案件になりますから、どのような建築物が建ち、利用されるのか大いに注目されるところではあります。

 このようなスクラップ&ビルドの計画を耳にするなかで、私が興味をもっているのが、建築物に終わり(解体)をどう迎えさせるか、つまり「終活」です。たとえば10階建くらいのRC造のオフィスビルやマンションを解体すると、3階分くらいに積み上がった瓦礫が発生してしまいます。適切な時期に適切なリノベーションを行うことで、こういった瓦礫を発生させず、耐震性や耐久性を高め、建築物をより長期的に活用することも不可能ではありません。

ソフト面が重要に

 ──ところで今後、福岡の建設業界に期待することはありますでしょうか、

赤樫幸治 氏
赤樫 幸治 氏

    赤樫 天神ビッグバンや博多コネクティッドにおいては、建設の中心を担っているのは全国大手の建設会社です。これは福岡県には地元の有力建設会社がないことを表しており、大変残念で寂しいことだと感じています。マンション建設を得意とする建設会社はあるのですが、特殊な建築物に対応できる建設会社はほとんどありません。そういった建設会社が出てくるようになると、福岡市のまちづくりはもっと活性化され、より良いものになるのではないでしょうか。

 森戸 私はかつて所属していた組織設計事務所では、さまざまなプロジェクトに関わってきましたが、福岡においてはまちづくりのグランドデザインをより洗練させるべきではないかと感じていました。先ほど話題に上がったキャナルシティは、もともとはカネボウの工場があった場所で、風俗街をこれ以上広げないように計画されたものだと聞いております。まちと人の関係をよく考慮した大変すばらしい計画であり、このようなまちのデザインが行われると良いと思っています。

 いずれにせよ、これからのまちづくりはハードだけでなく、ソフトも重視される時代です。同世代に熱心に企画力でまちを盛り上げようとしている人たちがおり、彼らと連携することで、まちづくりグランドデザインに関わる仕事に取り組んでいきたいと、個人的には考えています。

    ──最後に、お2人は県外のご出身で福岡市に根付き、事業を展開されています。そのなかで、重要と思われるのはどのようなことでしょうか。

 赤樫 当社では、先ほども申し上げましたが多くの案件に恵まれており、今後も野心的に仕事をしていきたいと考えています。ただ、それを可能にするためには人材の確保が必要で、採用や育成に力を入れているところです。福岡市は都市のイメージが良く、最近は東京の大手ハウスメーカーに勤務していた人材が、「当社で働きたい」と家族総出で移住してくるという、嬉しい出来事もありました。

 そうしたなかで大切な役割を担ってくれているのが、設計士でもある妻です。従業員との関係性を円滑にしてくれることも含めて、いつも私は支えてもらっています。やはり、事業を行ううえで、絶対的な味方がいるのは本当に心強いものです。

 森戸さんの事務所は7月に開設されたばかりですが、運営はどうされていますか。

 森戸 実は当社も同様で、それぞれ設計士である妻と義父が支えてくれています。ただ、これ以上、人員を増やすことは考えておらず、大きな案件については外注スタッフとチームを組み協力することで対応しています。このスタイルはヨーロッパでは一般的ですし、本音で仕事ができると考えているからです。

 ただ、設計事務所を立ち上げてまだ1年目。今後、案件が増えていくなかでお客さまに迷惑をかけるようではいけませんから、その際にはスタッフを増やすことも考えなければならないかもしれませんね。

(了)

【文・構成:田中 直輝】


<プロフィール>
赤樫 幸治
(あかがし・こうじ)
1993年、立教英国学院(イギリス)高等部卒業。97年、日本大学生産工学部建築工学科神谷宏治・川岸研究室卒業後、(株)穴吹工務店設計部入社。2009年7月に(株)R.E.D建築設計事務所設立。

森戸 大輔(もりと・だいすけ)
1978年生まれ。東京電機大学工学研究科修士課程修了。アトリエ系設計事務所で経験を積んだ後、組織設計事務所でマンションやオフィスビル、医療福祉や食品関連などの特殊建築物の設計を担当。統括責任者としてキャリアを積み、2023年7月に独立して森戸設計(株)を設立し、現在に至る。趣味はキャンプ。


<COMPANY INFORMATION>
(株)R.E.D建築設計事務所

代 表:赤樫 幸治
所在地:福岡市早良区西新4-6-15 ル・リアン西新102
設 立:2009年7月
資本金:1,000万円
TEL:092-852-1730
URL:https://www.redoak.co.jp

森戸設計(株)
代 表:森戸 大輔
所在地:福岡市中央区小笹3-12-8
設 立:2023年7月
TEL:092-791-3103
FAX:092-791-3032
URL:https://moricolle.jp

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