歴史と住民でつくるべき「楽しい日本」のランドマーク(4)
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建築で求められる総合力
かつて大学における建築の学びは、工学系の学部内にある建築学科が主流だったが、ここ10年余の間に、建築学部に改組する大学が増えている。日本初の建築学部が誕生したのは、2011年4月に開設した工学院大学と近畿大学。工学院大学は工学部建築学科などを改組、近畿大学は理工学部建築学科を建築学部に改組した。
日本の大学では工学系学部のなかに建築系学科が設置されるのが一般的だったが、建築にはまちづくりのような分野や、建物をデザインすること自体に作品を生むといった芸術的な側面もある。建築史、保存再生、不動産のマネジメントなど、理学や工学の枠にとどまらない広範囲な分野、もしくは社会学、心理学、環境学、都市論など多岐にわたった総合学問だ。建築を考えることは、単に建物をつくるためのものではないということの表れであり、多様な分野を体系的に学ぶには、建築学部として独立することが必要だったのだ。建築では、「見えないカタチ」を「見える形」に落とし込まなければならない。だから難解なのである。都市のなかでは、「行為・行動に基づくストーリーを紡ぐ」総合力が問われる。良い物語をつくるためには、多岐にわたる教養と構想力・調整力が求められる。
良い「物語」をつくる
2025年に大阪で予定されている日本国際博覧会(大阪・関西万博)は、物価上昇のあおりで建設費が2,000億円以上も増額することになり、批判の声が挙がっている。シンボルやランドマークとなる建築物にも厳しい目が向けられている。大阪・関西万博誘致の影の立役者・堺屋太一氏は、この万博を大阪でやることに意味があると言った。
東京と違い、大阪は官僚統制を受けてこなかった。民によってまちづくりがなされ、民の文化を醸成してきたのだ。大阪・関西万博を契機に、大阪という都市を日本だけでなく世界でどう位置付けるか。
自主独立の文化をもう一度生み出し、大阪の誇りを取り戻すことは、日本にとって有益になる。今こそ発想を大転換し、再び日本の中心たる大阪を目指そうではないか、と。万博は日本が再成長する道筋、大阪が自主独立すること、「楽しい日本」を創造することで、「三度目の日本」の扉を開く契機になるのだと、彼は願ったのだ。
デザインの力を使う
台湾は、デザインを重要な国策として位置づけた。この国のシニア世代は、自分たちが競争社会のなかで生き残ること、稼ぐことを重視してきたが、今の若い世代は自分たちの生活や、公共に対する関心が非常に高い。政府機関も企業やブランドも、デザインを取り入れることで彼らにアピールすることができる。今では公務員にもデザイン思考が浸透し、その策定のサポートや、政府各所や企業とデザイナーのマッチングを政府関連機構「台湾デザイン研究院」が行っている。
その土地の記憶が土台になり、ストーリーを組み立てる。そして価値観が“カタチ”となり肉付けしていく。これら一連の行為を、私たちは「デザイン」と呼ぶ。もしかすると「デザイン」は、これから大きな舵取りをするうえで、有力な武器になっていくのかもしれない。国も“自国をリブランドする”という「デザイン思考」、国を経営する(編成する)という「ブランディングアプローチ」が必要となってくるだろう。
「デザイン」と「経営」には本質的な共通点がある。エッセンスを視覚的に表現すればデザインになり、文章で表現すればコピーに、経営の文脈で表現すればビジョンや戦略になる。フランスでは文系理系を問わず、最重要の科目として「哲学する力」が必修の教養として位置付けられている。人生において大きな“問い”を見つけることができれば、その後の人生は楽しいものになっていくだろう。
次の日本の“カタチ”?
冒頭の話題に戻す。愉快犯の犯行は許されるものではないが、副次的に市民の潜在力を見た。社会を動かす連帯感はこれまで、とかく鈍く、疎い。でも実は、ただ空ぶかしに終わっているだけで、結束するまでのまとまりにできていないだけなのかもしれない。本当は街のことや国のことだって、我が子を守らなければという良心によって結束できたように、きっかけの狼煙を待っているだけなのかもしれない。街に住む市民が、それぞれの地域で小さくても声を挙げることは、無駄ではない。
“小さな手づくりの公園”からでもいい。“身の回りの環境”からでもいい。これらをつくっていくのは、“どうやって”ではなく、“何を”つくったらいいかを考えられる人、“なぜ”つくるのかが見えている人が先頭に立つべきだ。
土建国家日本において、技を持つ職人はそこら中にいる。売上を伸ばしたいと、近寄ってくる者もいるだろう。そこに特段の悪意がなくとも、トンチンカンなものは容易に、そしてあっという間にできてしまう。少なくともその土地の記憶をもっている関係者が、構想段階から入った開発プロジェクト体制が組まれることを望む。その街に住む人の体温と潜在力を結束させる小さな仕組みは、その土地の文脈から波及するものなのだから。
(了)
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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